「狂人たちの謝肉祭」あしたのジョー ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
狂人たちの謝肉祭
高森朝雄、ちばてつや原作、連載当時、空前の人気を博したボクシング漫画を、「ピンポン」の曽利文彦が実写映画化。
肉体の躍動から生まれる一瞬の美学、心を激しく揺さぶられるボクシングというスポーツの持つ衝動、輝きを純粋に、丁寧に描き出す。この一点を目指し、本作のもとに狂人たちが集められた。
自分の事務所に属するイケメンジャニーズタレントに擦り傷、切り傷、果てはゴムの如く、顔をぐにょんぐにょんに変形させることを厭わない、狂人がいた。
前作「ICHI」の興行的失敗に敢えて目をつむり、スポーツをいかに描けば観客を興奮させられるか、喜ばせることが出来るかを、「ピンポン」をもって証明した曽利監督に、この全国公開規模の作品を任せた、狂人がいた。
そして、自分の顔の良さを十分に理解しながらも、あの手この手で汚され、潰され、その自分の大事な要素を封印することを許した、山下、伊勢谷という狂人が、いた。
ボクシングという手段を通して、思う存分人間の美しさ、可能性を表現できる肉体に感謝、挑戦していくことに映画制作の全てを注ぎ込んでしまったために、人間ドラマの場面では一部、コスプレショーの様相を見せてしまったことは否めない。だが、私はこれでいいと思う。エンドロールに映しこまれる二人のボクサーが見せる輝く肉体が、この物語の目指す方向性を示している。狂人たちが目指す世界には、手が届いたはずだ。肉体が、芸術になった。
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