「「またね」「きっとだよ」と言ったのに…。」ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
「またね」「きっとだよ」と言ったのに…。
信頼できるはずの大人と社会に裏切り続けられたリスベットから出たひと言。これ以上、心に響く言葉は見つからない。ゆるぎない信頼の証。この言葉の重みは、第1作と第2作を見ていないとわからない。
次の物語が始まる予感だった。
タトゥについても明らかにされていないし…。
リスベットとミカエルの関係、エリカとミカエルの関係、リスベットとエリカの関係、そして、アニカとの関係も見守っていきたかったのに…。
だのに、ミカエルを演じていらしたニクヴィスト氏が鬼籍に入られた。大好きな二人は永遠にこの先を紡いではくれない。せっかく、原作者が亡くなられた後をついだ続編が出たときくのに。
野生のピューマ・ヤマアラシみたいなリスベットの微妙な思いを、繊細に愛おしく格好良く衝撃的に表現してくれたラパスさん。
リスベットに寄り添う、実直なのに鈍感でちょぴり傲慢でもあるミカエルを演じたニクヴィスト氏。
他の役者が演じても、あの二人にはならない。なんて悲しいことだろう。
ご冥福をお祈りするとともに、この3作を残してくれて「ありがとう」。
第2作でのもやもやが、第3作では、さらに大ごとになってハラハラ―こんなに大風呂敷広げて回収できるのかというハラハラもあり(笑)ーが、新しい風が吹く予感で終わる。
”眠れる女と狂卓の騎士”とは、よくつけたものだ。原作の副題は違うらしいけれど。
前編後編のTVドラマとして作成された第2作と第3作を編集して映画に仕立て直したとか。
第2作で、これでもかと孤軍奮闘したリスベット。
それが、第3作では眠れる姫(収監されているリスベット)を守るべく、ナイト達が活躍。そのナイト達とは、微妙に同じ思惑・違う思惑で、たくさんの人たちが動き、結果リスベットを…。
その対比が鮮やか。第2作でこれでもかと鬱屈させられ、第3作で収拾がつくのか、どう反撃するんだとハラハラさせられる展開が、すうっとする。
もちろん姫もただ守られているだけではない。
勝手に私がラスボスと思っていた人はあっさりと殺される等、邦画とは違う展開に引き付けられる。
ただの復讐劇ではなく、社会派ドラマ。
国家的な陰謀を民間ジャーナリストが暴くが、正義の鉄槌を下すのは国家権力というところも、安定感に支えられて心地いい。正義は勝!
そして何より、胸をわしづかみにされるのはやっぱりリスベット。
裁判でさえ、一人で戦うつもりで乗り込んでいく。ミカエルの妹である弁護士がブチ切れそうになるほどに。
少女時代、リスベットの言葉をまともに扱う人はいなかった。その生き様はヤマアラシのジレンマ。法廷に乗り込むファッションはハリネズミ・戦闘服。
でも、リスベットの知らぬところで、実は味方はいた。
第1作ではリスベットを推挙する弁護士、リスベットの調査を信用する弁護士、
第2作では命がけでリスベットを助けようとする人々、
第3作で尽力する面々(今回の主治医とのロマンスも期待したくなるが、主治医の自転車の後ろ座席は子ども用の椅子…)と、
でも、それを実感できていないリスベット。だから、病院での、裁判での周りの言動ごとに、微妙な様々な表情を見せる。そこがくすぐったくこそばゆい。さらに、リスベットのファンになってしまう。
そう、ただの法廷劇ではなく、人間ドラマ。
リスベットの、人と人との距離の詰め方が、とってもくすぐったい。いじらしくて、幸せになるまで見届けたいと思ってしまう。そんな余韻が後を引く。
と、第2・第3作続けてみると☆5。けれど第1作と比べると、やっぱり評価は落ちてしまう。
緻密な小説を端折ったからだと思うが、映画だけだと唐突な展開・ご都合主義的展開・不可解な展開・もっと掘り下げて丁寧に描写してほしい展開・端折ってほしいだらだら展開が目につく。なにより、TVドラマとして作られたからか、第1作に比べるとキレが甘い。
”巨悪”ということはわかるが表面的な描写。サブストーリーに追いやられ、『ミレニアム』の存在が活きてこない。
その巨悪に『ミレニアム』が追い詰められるが、第1作の強烈さに比べると、緊迫感にかける。エリカの苦悩、エリカとミカエルとの不協和音を見せるけれど、中途半端。追い詰められ方は、第1作より第2・3作の方が、四方八方魔の手が迫り、大変なんだけれど…。
法廷でも、最初のリスベットの反撃は「さすが!」と喝采だが、それ以降は精彩を欠く。第1作でファンになったリスベットじゃない!!幼子? 最初にやり込められて、後半、狂卓の騎士達からの反撃と、”見せ場”を作るため? とはいえ、他の映画の法廷でのやり取りと比べると、あまりに単純すぎて…。しかもオチが…。かつ、リスベットの罪状について審議されていない…。反撃には拍手喝采したいスカッとする場面ではあるのだけれど…。
とはいえ、権威の影に隠され、社会の中に紛れ込んだ悪を、
訴えられて牢屋に収監されてしまう記者も含めて、社会的に有利に立ち回ろうとしない、社会から見れば鼻つまみ者たちが暴いていく。
よくある題材ではあるものの、他の映画に比べれば、綿密に練られた物語。
だから、何度でも言ってしまう。
もっと、観たかった。