あの夏の子供たち : 映画評論・批評
2010年5月25日更新
2010年5月29日より恵比寿ガーデンシネマほかにてロードショー
共有された柔らかな時が見る者の胸に染みる
23日、閉幕したカンヌ国際映画祭。公式ページで授賞式を見るとティム・バートンが「この2週間を共にした新しい家族」と自らが長を務めた審査員団を紹介していた。そこにはフランケンシュタイン愛で彼と結ばれた(!?)ビクトル・エリセの姿もあって、やはりこれは相当に涙腺刺戟な瞬間なのだった。そのバートン+審査団が聖林とは別の視界を与えてくれたと大賞を異才アピチャッポン・ウーラーセタクンに贈ったのもうれしい驚きだった。そうして今年のカンヌも終わり、もう夏と思う今日この頃ーーひとつの終わりの後に来る始まりの甘苦さを逞しく享受して溢れる光の記憶を残す新鋭ミア・ハンセン=ラブ監督作を愛でるのにいかにもふさわしい季節だ。のみならず新鋭のこの長編監督第2作、バートンのいう“映画の家族”のことも、“別の視界(近頃めっきり軽んじられている作家の映画)”のことも深く思わせてくれる。
溌剌と仕事に励んだアート系映画製作者がふと命を断って残された家族の物語が始まる。それでも続く人生そのままに映画は流れ新鋭の底力を思わせる。一方で映画によって結ばれた“偶然の家族”もみつめられる。魂の継承が問われる。監督とモデルとなった実在の製作者アンベール・バルザンを結ぶブレッソンへの共感、それを背骨とするように淡々と歩く人の姿を映画は積み重ねる。恋した娘と監督志望の青年が並んで歩く。共有された柔らかな時が見る者の胸に染みる。美しい単純さの中に生きることの酷さ、それゆえの真実が射抜かれる。そんな映画の家族でありたいと、新鋭の快作は観客に熱望させるだろう。
(川口敦子)