劇場公開日 2010年4月10日

「本当の男女の愛とは?、本当の幸せとは何か? そのことを若い二人が気づき人間として成長していく その過程を描いたロードムービーだったのです」幸福(しあわせ)の黄色いハンカチ あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0本当の男女の愛とは?、本当の幸せとは何か? そのことを若い二人が気づき人間として成長していく その過程を描いたロードムービーだったのです

2021年1月7日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

久しぶりに観て、やはり傑出した名作だと
素晴らしい作品だと感嘆しました

そして新しい気付きを得ました
それは主人公は高倉健の演じる刑務所を出たばかりの中年の元炭鉱夫ではなかったということです

あくまでも本作は武田鉄矢と桃井かおりの二人が演じる欽也と朱美の若者カップルの物語であったということに気づくことができたのです

高倉健の島勇作はあくまで狂言回しです
クライマックスの黄色いハンカチの満艦飾の後の夫婦の再会ですら、島勇作とその妻光枝の物語はロングショットであり、カットバックで語られる物語の中心ではないのです
その後の車中で激しく求め合う欽也と朱美の燃え上がる男女の感情の純粋さこそが本作が描くテーマだったのです

本当の男女の愛とは?、本当の幸せとは何か?
それを若い二人が気づき人間として成長していく過程を描いたロードムービーであったということなのです

だからこそ欽也は、序盤コケてばかりしている滑稽ないい加減な男として強調して描かれています
朱美もそれなりの女の子に過ぎないとして描かれています

そのように本作の内容をもう一度思い返してみると全く印象が変わってきます
一見無駄に見えるシーンもそうではなく、何一つ無駄なシーンのない必然性のあるものばかりだと言うことに改めて気づかされました

車が畑に落ちて酪農家の家に泊めてもらったシーンの重要さ
あのシーンは幸せの形を朱美が知り、彼女が幸せであることが自分の幸せであることに欽也が思い至る為の伏線であったのです

そして渥美清の演じる渡辺係長の島への言葉は、実は欽也と同じ私達観客に向けられたことであるのです
一生懸命辛抱していりゃきっといいことあるよ
それは失恋したからといって仕事を辞めて投げやりな生活をしていたらろくなことはない
出前の女の子にも優しく接するような人間になりなさい
そうすれば能力もなく才能もなく出世の望みがもうなくたってなんとかなるもんだ
そういうことを私達観客と、その場にはいない欽也と朱美の若い二人に語っていたのです

道沿いの小広場で銀座カンカン娘を歌うグループのシーンは、それをみかけてちょっと車を止めただけのようで、島勇作の視線がそのグループの遥か後方の鯉のぼりに釘付けになり、彼が夕張に向かうと決心したきっかけだというシーンです
その歌は札幌から東京に行ったとしてどうなる
その遥か向こうに小さく見える鯉のぼりにかけよりたい
その島勇作の気持ちを雄弁に語っていたシーンでした

その鯉のぼりはクライマックスの黄色いハンカチの満艦飾の伏線になっています
その鯉のぼり自体も泊めてもらった農家の子供たちと朱美が歌った背比べの童謡と繋がっています

長い旅のようで実際は短い旅だったことにも改めて気がつきました
欽也がフェリーで釧路についたのが5月1日のメーデー
阿寒湖の宿がその夜
農家で泊めてもらったのが5月2日
帯広を出て街道沿いの安宿に泊まったのが3日
クライマックスの日は子供たちが下校しているので5月4日の平日のことになります
たった4日間の物語だったのです

昔、本作と同じ季節に釧路に行ったことがあります
仕事が早く終わり、ホテルに一度戻ってからどこで酒を飲もうかと市内を散策しましたが、あまりの寒さに音を上げて幣舞橋の袂の居酒屋にすぐに逃げ込んだことを思い出しました
店に入ると5月なのに「寒かったでしょ、ストーブの前にどうぞ」と言われたものです

車の走行シーンで見える桜も思い出しました
道東の桜は東京からは1ヶ月遅れ
桜もあまりの寒さに枝を捩じらせたように捻れているのです
その花も、どこか寒色ぽいピンク色の花びらを凍えているように咲かせているのです

寒い孤独な所にいる三人が、互いに温めあいながら旅を続けるうちに、風景まで温かい所に変わっていきます
クライマックスは暖かい陽光が眩しく光っています
幸せのすぐそこまで来たのだと実感できる演出だったのです

新しい気づきを得られましたが、ラストシーンに涙腺が決壊して涙が止まらなくなるのは変わりません
一層感動が深くなりました

山田洋次監督の才能と実力に脱帽です!
日本映画のオールタイムベストの上位を占めるのは当然のことだと思います

あき240
えーじさんのコメント
2024年12月20日

流石、素晴らしいレビューです‼︎

えーじ
野球十兵衛、さんのコメント
2024年2月20日

>武田鉄矢と桃井かおりの二人が演じる欽也と朱美の若者カップルの物語
ああ!なるほど!と膝を打ちました。
あき240さんの的確なご考察に驚かされるばかりです。
これからも素敵なレビュー楽しみにしていますね。

野球十兵衛、
KENZO一級建築士事務所さんのコメント
2023年6月11日

 あき240さんへ
コメントありがとうございました。
あれだけたくさんの黄色いハンカチを取り付けた妻を想像すると、更に涙腺が緩んできそうですね。
引き続きの御意見、宜しくお願いいたします。

KENZO一級建築士事務所