「安兵衛さんのプリンが食べたい」ちょんまげぷりん 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
安兵衛さんのプリンが食べたい
シングルマザーのひろ子と幼い一人息子の友也。
毎朝けたたましい目覚まし時計と共に起き、朝食や弁当は冷凍食品。(夜ご飯も)
その日も出社前に子供を保育園に送り届けようと急いでいた時、ヘンな人を見掛ける。
ちょんまげ、刀を持ち、時代劇のようは出で立ち。
何かのイベント…? 撮影…?
…ではなかった!
180年前の昔からタイムスリップして来た、モノホンの侍であった…!
昔の人が現代にタイムスリップ。もしくはその逆も。
映画などではよくあり、目新しい設定ではない。
が、作品によってはムラがあり、下手すりゃシュールだったりトンデモだったりおバカ映画だったり。
しかし本作は、上々のコメディ作品となっている。
これも中村義洋監督の手腕。
何と言っても、ありふれているが設定と、タイムスリップして来たお侍・安兵衛さんのキャラが面白い。
ここは妖怪の国か、神の国か。
見るもの聞くもの全てに呆然圧倒。
カルチャー・ギャップを超えたカルチャー・ギャップ。
拙者がおかしくなったのか…?
否!断じて!
一本筋が通った真人間。
お堅い性格ではあるが、真面目、義や情に厚い。
ファミレスや(ちょっと先に述べてしまうが)コンテストで一喝するシーンはしびれる。
甘えっ子の友也に礼儀や人や男としての何たるかを教える。
今の世の中、こういう人、すっかり居なくなってしまったね…。過去から来てもいい、今の時代ヘンな目で見られてもいい。自分自身を突き通す、そんな人が居たっていいじゃないか。
ひょんな事からひろ子と友也母子の世話になる。
居候させて貰い、冷凍食品だが今の世の食べ物は美味しい。
中でも、“プリン”なるもの。かのように美味なるものが…!
お世話になった恩義として、忙しいひろ子に代わって、家事全般を引き受ける。
かくして始まった“家事侍”。
意外な才能を発揮。
中でも飛び抜けた才能を発揮したのは、スイーツ作り。
“家事侍”から“スイーツ侍”へ。
ひょんな事からコンテストに出場。まさかの優勝!
一躍人気パティシエに…!
錦戸亮の映画初主演作。(2010年の作品)
ちょっとお堅さは感じるものの、ユーモア交え、安兵衛さんのように一生懸命に真摯に好演。
キャストで特に素晴らしかったのは、ともさかりえ。と言うか、メッチャメッチャ魅力的!
まだアイドルだった『金田一少年の事件簿』の頃から見ているが、本当に魅力的な大人のいい女性になった。
本作ではあの頃と変わらぬ可愛らしさと、コメディセンス、母としとて、働く女性として、そして安兵衛さんに次第に仄かな想いを抱く一人の女性として。
手を繋ごうとしてたじろく安兵衛さんに言った「ウブよのう、若侍」の台詞に、私は完全KO!
何度も言うが、本当に魅力的! あの頃から今も、改めてやっぱり好きな女優なんだなぁ、と。
当時6歳(撮影時は5歳)だった鈴木福クンも愛らしい。
他キャストでは、キンコン今野もコミカル助演。
確かに甘々、予定調和な作品ではある。
所々ユルくて都合いい点もあるし、コンテストでのアクシデントや終盤友也が居なくなってしまった事態や、まるで錦戸クンの為のようなヒロイックな見せ場も。アイドル映画と言えばアイドル映画。
タイムスリップの設定もイマイチ。
が、本当に心地よく温かく楽しく見れる。
ラストの別れの展開も予想出来るが、素直に感動。
甘いだけじゃなく、ビターな隠し味も。
昔の男、現代の女性、生き方働き方の違い。
シングルマザーの悩み。
母子の仲はいいが、なかなか生活は大変…。
そんな時安兵衛さんが現れた温もり…。
が、安兵衛さんも人気パティシエとなって一緒に居られる時間が次第に無くなっていき、すれ違いや疎遠、そして…。
安兵衛さんが現代にタイムスリップして来た理由の一つに、心から願った“働き口”。
自分に何か出来る事はないのか…?
仕事に没頭する事は何ら悪い事ではない。特に、才能を埋もれさせる事は勿体無い。
それ故、失ってしまうもの…。
自分にとって、最も大事なものは何か…?
安兵衛さんの生き方も考え方も、ひろ子の生き方も考え方も、これが一番大事、あれが一番大事と簡単に優劣付けて割り切る事なんて出来ない。
だからより一層、大事で考えさせられる。
数々のスイーツの美味しそうな事は言うまでもなく。
コンテストの江戸城ケーキはもはや芸術レベル!(安兵衛さんのナイフ捌きも)
でもやっぱり一番食べたいのは、安兵衛さんが作ったプリン。
甘くて美味しく、ほんのりのほろ苦さも。
美味しいプリンを食べたような、素敵な後味の一品。