「悪意の連鎖。」白いリボン ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
悪意の連鎖。
名画座にて。
2009年度カンヌでパルム・ドールを受賞した本作。
まぁ…この監督の作品は冷徹で暴力的な描写が目立つ?といえば
確かにそうなんだけど、今回は子供への体罰やリンチ(これも酷いか)
描写はまだ控えめ…でも、言動による暴力もけっこうなものだった。
人間の心にはこれほど悪意が芽生えるものか?と思ってしまうが、
タイトルの白いリボンに示されるように、こんな環境で抑制されれば
自ずと人間の心はねじ曲がり、そして子供達がナチス台頭時代へと
成長していくうすら寒い未来(の歴史)に納得せざるを得なくなってくる。
穏やかに見える農村に潜む異様な悪の気味悪さを謳っているのだが、
しかしここで描かれる事件には現代に繰り越されているものも多い。
利己的な権力を振り回す大人が子供達から崇拝されるはずがない。
一見おバカ?(すいません)にとれる傍観教師が語り部となる回想劇、
全編がモノクロでいかにも…な世界を作り出しているがその世界は
第一次大戦前夜の北ドイツの村から一歩も離れず、排他的な村の
存在を更に浮き彫りにする。不可解な事故や事件の背景は男爵家
への恨みが根幹かと思いきや、数多く描かれる家令や医者や牧師と
いう登場人物にもそれぞれフォーカスして見せるので、何が何だか、
わざと混乱させているようにも感じるし、或いは、必要あったのか?
とすら思えるシーンも数多く描かれる。観進めればおおよその展開、
いわゆる犯人探し(という目では観ない方がいいかもしれないけど)
の結末が分かってくるのだが、そんなことより、このままいけば…と
いう思いが強く圧し掛かってくる。子供達の目や態度を見れば、この
語り部教師ですら気づく恐ろしさが既に潜んでいるのが見てとれる。
とはいえ、最後まで曖昧に真相は…藪の中。
こうして傍らに潜む悪意はある時突然暴挙と化して表面に出てくる。
大概の人間はその兆候に気付かないふりして葬ってしまうのですね。
(だからこうなった、が残酷に観てとれる作品。繰り返される連鎖。)