劇場公開日 2011年11月11日

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マネーボール : 映画評論・批評

2011年11月1日更新

2011年11月11日より丸の内ピカデリーほかにてロードショー

半端者たちの静かな蜂起。思わず背中を押してやりたくなる

野球の世界では背広族は嫌われている。球団社長、編成部長、ジェネラル・マネジャー(GM)。要するに、ユニフォームを着てフィールドに立つわけでもないのに、人事や戦略につべこべと口を挟む連中のことだ。

マネーボール」の主人公ビリー・ビーン(ブラッド・ピット)は、オークランド・アスレティックスのGMだ。普通なら憎まれ役にされそうなところだが、ビーンは映画の主役だ。あの貧乏球団が2002年にア・リーグ記録の20連勝を達成できたのは、彼の力が大きい。

ただし、ビーンはヒーローでもアンチヒーローでもない。ここが脚本(スティーブン・ザイリアンアーロン・ソーキン)の賢明なところだ。彼らは、ビーンを「半端者」に設定した。野球選手として挫折を体験し、いつまで経っても自身の弱点をなかなか克服できない半端者。そんな男を、GMという「嫌われ権力者」の立場においたら、どのような物語が可能になるのか。

ふたりの脚本家は、ビーンの周囲にも複数の半端者を配置する。イェール大学出の秀才だが野球の体験がないピーター・ブランド(ジョナ・ヒル)。実力はありながら、従来のデータ分析では過小評価を余儀なくされてしまう地味な野手や投手たち。

強引に断言するなら、「マネーボール」は、彼ら半端者の静かな蜂起を物語のエンジンに設定している。彼らは吠えない。彼らは嘆かない。だが、彼らは悪びれない。運命や弱点に押しつぶされそうになりながら、挫けずに戦いつづける。そのうしろ姿は妙に胸を打つ。いったんは野球から遠ざかるかに見えて、彼らは野球のエッセンスに肉薄していく。面白い逆説だ。そして爽快なのは、ハイテクと情感のはざまに覗く細い通路を、弱点の多い登場人物たちが強行突破していく姿だ。ここは楽しい。われわれ観客も、思わず、彼ら半端者たちの背中を押してやりたくなる。

芝山幹郎

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