劇場公開日 2010年5月1日

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「おい、甘えてんなよ」川の底からこんにちは 病気の犬さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5おい、甘えてんなよ

2013年5月21日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館、CS/BS/ケーブル

楽しい

満島ひかる演じるヒロインが中の下の存在でも懸命に生きることを力強く歌い上げるこの作品は、アンチ等身大映画の自分からしても悔しいことに面白かった。

そう面白さには脱帽である。

ただ、脚本内で度々使われる『中の下』という感覚はどうにも納得がいかない。等身大であること、いわゆる中流であることすらも今時は許されないのだろうか。特段揚げ足を取ろうとしているのではなくて、単純にその心意気を疑う。

満島の素晴らしい演技を軸に物語が進み、相手役らしい相手役もない映画で、構造は集の中に輝く一を置く形、状況の中でその一がどう動き叫ぶかを楽しむ映画であるが、その一が中の下ではいかがなものか、劇中、あなたもどうせ中の下でしょう。という台詞があるがこの構造でそれを言い出すのはちょっと違うんじゃないかと思う。中の下であることは確保しつつ劇中いきいきとチャレンジして障害を乗り越えていく姿に違和感がある。なぜ中の上を目指します。といえないのか。中の下だって頑張るんだとかいうくらいなら、人には上中下の区別などはない。といったほうが良いだろう。なんというか主張に小ずるさを感じる。中の下だけど良いこと言います。でも期待しないで下さい。中の下ですから。といってるのと同じじゃないだろうか。中の下だからといえば何でも許されるわけではないだろうに。

F1層とかいう、もっとも流行やら何やらを作り出し、消費を牽引する世代の女性が、中の下云々で満足してもらっちゃ困る。30台の男性向けの映画なんてぜんっぜん無い、ドラマも造られないのだ。世の中に一番甘やかされる世代なんだからもっと欲深でいてくれなければ、犠牲になる同世代の男には辛いものがある。

瑣末なシーン、演出・演技はかなりクオリティが高く、特に間の感覚が素晴らしい。行ってしまえば、全員でウタを歌うシーンと、子供を乗せて自転車で疾走するシーン以外は全部、間である。相当に優秀なコメディだ。だが、例えばパートの女性や食品工場やそれこそ中の下といわれるような人々に対して、あまりにリスペクトを感じない。別に差別表現など気にするような見方を私がしているのではないが、こういったテーマで製作するのならばもうちょっとフォローがあってもいいのではないか。少なくともパートの女性は皆ひっくるめて中の下扱いしているのではないだろうか。中の下でもいいじゃないか。と勝手に決め付け、なおかつ懐深げに肯定してみせるさまはあまりに傲慢ではないだろうか。

映画としての品質は認めざるを得ないほどに面白い。しかしどうにも諸手を挙げて賛成する気は無い。というよりも監督、途中から完全に主演女優にしか興味がなかったよね。

病気の犬