桃色のジャンヌ・ダルクのレビュー・感想・評価
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再考、最高
「チー公大作戦 メダカを救え!村長選挙」を手掛けた鵜飼邦彦監督が、アングラ界で注目を集め続ける異端の画家、増山麗奈の謎に満ちた生活を追いかけたドキュメンタリー作品。
「母乳アート」である。感受性の高い中学生男子にこんな一言を夜中に耳元で囁いてごらんなさい。寝惚けた頭もすかっと爽快、「皆様、お早う御座います!」となること請け合いだ。
そんな卑猥なエネルギーを撒き散らし、歪んだ日本に喝を入れ続ける画家を真正面からみつめる本作。観客は、その何ともエロティックな作品世界をこれまたエロティックな視線で考える変態作品かと予測し、本作へと目を向けるはずだ。
ところが、いざ本作を観賞してみると、この作品の高い批評性、意欲の高さに驚かされる。増山という奇抜な芸術家を通して、日本とは、正義とは、果てはアートの本質まで冷静に、客観的に考えていく学術性が滲み出る。
テーマは極めて「こんなもの見て・・タカシ、お母さんは悲しいわ」な男性の興味を掻きたてるものだが、R指定を巧妙に回避している。増山の描く芸術を正統に評価する人間の批評を重ね合わせ、生温い特殊性で塗りたくられた現代芸術界において増山が求められる理由、政治的に声を発しなくなった沈黙の日本へもう一度、主張する力を与える方法をスタンダードなドキュメンタリーの手法を用いて、懇切丁寧に観客へと突きつける。
かと言って、本作は反戦ドキュメンタリーではない。一人の女性が生きる道、その格好良さを一歩離れてみつめるだけの作品だ。そこから浮かび上る活力、芸術の可能性、本能のまま突っ走る人間の美しさに心震えるもよし、微妙にデッサン力のある女性画家の世界に感心するもより、エロに悶々とするもよし、幅広い思想、立場の人に多様な楽しみ方を提示する本作。
「エロですなあ」と笑いながら世界を考える。そんな卑猥な芸術も、良い。
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