「ツッコミ所はあるけど楽しめる終末世界ウェスタン」ザ・ウォーカー 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
ツッコミ所はあるけど楽しめる終末世界ウェスタン
終末世界が舞台のウェスタンといった感じの映画。
荒涼とした空気が魅力的な過去の名作の匂いがそこかしこに漂っていてイイ感じです。
主人公の刀でチンピラが腕を切り落とされたり、殺伐とした空気を表す小道具として痩せた猫が出てきたり、なんだか黒澤明の『用心棒』なシーンが序盤からちらほら。あっちは猫じゃなくて犬だけど。
敵の副官が吹いてた口笛は大御所エンニオ・モリコーネの曲だし(西部劇ではなく『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』の曲?)、『座頭市』や『マッドマックス』的な感じもある。
灰を連想させるような、色を抑えた映像も美しい。
広く青白い空、延々と続く白黒の焦土——荒廃美、とでも言うのだろうか。この美しさは大スクリーンで観なきゃ伝わらない。
またアクションシーンも凝った見せ方で楽しませてくれる。殺陣を逆光で捉えたシーンは様式的な美しさがあるし、砂漠の一軒家で繰り広げられる壮絶な籠城戦をワンカットっぽく繋いだシークエンスは、目眩がしそうな迫力だ。
話の中身について。
物語の鍵を握るのは主人公が持つ、世界に現存する(恐らくは)最後の聖書。
聖書を人心掌握の為に利用しようとするゲイリー・オールドマンの台詞がシンプルだが良い。
「昔の指導者はそうした。私もそうする」
聖書の教えには無神論者の僕も敬意を払うが、それを伝える人間が必ずしもその教えに見合った人間とは限らない。
世の中には神の名を金儲けに利用する人間がいて、神の教えを自己正当化の為に都合良く解釈する人間もいる。
そういや桑田佳祐も唄っておりました。
『いつもドンパチやる前に、聖書に手を置く大統領(ひと)がいる』——
どんなに崇高な目的の為に造られた物も、使い方を間違えばそれまでって事ですね。
主人公は辛い時代を生きる全ての人間に希望を与えるために聖書を西へと運んだ。それが盲目の彼に唯一見えていた生きる道、希望の光だったんだろう。しかし聖書を再び人の手に戻す行為は人類にとって本当に幸福な事なのか……ちょっと複雑な気分ではある。
あと、主人公が実は“座頭の市つぁん”だった事が判明するラストも「いくら何でも強すぎるような……」と思ったり、ヒロインの最後の姿に「戦い方とか教わってなかったようだけど本当に大丈夫?」と要らぬ心配をしてしまったり、ツッコミたい所は色々ある……あるけどまぁ、楽しめたから良し!てことで。
<2010/6/19鑑賞>