劇場公開日 2010年5月22日

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トロッコ : インタビュー

2010年5月18日更新

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■自然に出てきたアドリブ

ひたすら自然体を貫いてきた尾野だが、異国での長期間に及んだ撮影の後半には心情の変化が演技にも影響を及ぼす。物語がクライマックスに差し掛かる直前、突然倒れた義母を見舞いに行った夕美子が家に戻ると、長男・敦(原田)と弟の凱(大前)がいなくなっていた。祖父が「日本とつながっている」と教えてくれたトロッコに乗って日本へ帰るために。心配した夕美子は、2人を探し回り警察にまで足を運んだが見つからない。放心状態で玄関に座り込んでいた夕刻、なんとか山中から家にたどり着いた2人を、きつく抱きしめる。

「最後のシーンはほぼ順撮りでした。それがなかったら、抱きしめられていないんじゃないかな。あの子たちは他人ではあるけれども、私と1カ月くらい生活をともにしてきた過程があるなかで、そこにいてくれないとダメだと思わせてくれた。だから、ただ『あなたたちが大事よ』って言いたかったんです。そのセリフのあとに『お帰り』って付け足しているんですよ。この作品で初めてアドリブというか、自然な言葉が出てきましたね。大事よっていうだけでは足りない気がして」

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■子どもをもつことが怖くなった

クランクアップから約2年。育ち盛りの子役2人の身長は目を見張るほど伸びているだろう。一方の尾野はといえば、母親役を演じてみて子どもをもつということが怖くなったという。

「子どもとの距離が遠くなってしまう、夕美子と同じことになってしまうんじゃないかってすごく感じたんですよ。『私、大丈夫かな?』という気持ちが一気に出てきて、子どもが欲しいなっていう夢よりも逆に不安になりましたね」

とはいえ、劇中で演じた夕美子は、夫を失ったばかりで自我に目覚めた2人の少年の母親。実際の尾野を取り巻く状況とは大きく異なるが「そうなんですよ。ただ、それでも子どもをもつということはそれだけ大変なことで、こんなにも不安なことがいっぱい出てくるんだなあって思いました」と胸中を明かした。

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だからこそ、以前にも増して家族を敬う気持ちは強くなったそうで「私は4人姉妹なので、母のことを尊敬しましたね。よく育てられたなあって。姉2人も子どもをしっかり育てていますし。今、子どもをもつ全ての人のことを尊敬していますね」と真摯に語った。

2007年に主演した河瀬直美監督作「殯の森」が、第60回カンヌ映画祭でグランプリに輝き、その存在感を世に知らしめた。「トロッコ」は昨年11月、インド・ムンバイ国際映画祭のインターナショナル・コンペティション部門で公式上映され、川口監督は握手とハグでもみくちゃにされたという。

フランスで「マチコ・オノ」の名が一世を風びしたように、そう遠くない日にアジア全域で「尾野真千子」という、どこまでも自然体で気負いのない女優の名前がじわじわと浸透しているに違いない。

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