大奥 : 映画評論・批評
2010年9月28日更新
2010年10月1日より丸の内ピカデリーほかにてロードショー
男女逆転の大奥を舞台に、出世欲や嫉妬が絡んだどろどろの世界が展開
オープニングそうそう、にぎやかな江戸の町が映し出される。重い荷車を引き、物を売り歩き、大工仕事をしているのは、女性ばかり。疫病で男子が減り、男女の役割が逆転したのだ。大奥ものは珍しくもないが、男女逆転という前代未聞の設定がユニークで楽しめる時代劇になっている。
主人公は「嵐」の二宮和也が演じる貧乏旗本の息子の水野祐之進。彼は大店(おおだな)の娘お信との身分違いの恋を封印すると、大奥に入って出世をめざし、将軍吉宗に気に入られるのだが……。大奥のルールを教える先輩の杉下、祐之進に憧れるお針子の垣添、大奥きっての剣の達人でライバルになる鶴岡など、個性派俳優&イケメン男優が演じるキャラはすべて擬似女性で、宝塚の男性バージョンのような歴史改変が好奇心をそそる。
男女逆転を現代ではなく徳川時代、それも〈大奥〉に設定したところがうまく、壮大なパロディになっている。男たちがたった一人の女将軍に気に入られようと自己顕示欲を炸裂させ、そこに出世欲や権力欲がからみ、さらにボーイズラブや嫉妬がないまぜになった、ゴージャスでどろどろの迷宮ワールドが展開する。女将軍の初体験の相手は死刑というのは納得できないが、男女逆転という奇想天外な仕掛けの前では不自然さもたいしたことはない。媚びない持ち味の柴咲コウが演じる吉宗は、大奥のリストラをスパッと断行して財政再建をめざす改革者という位置づけが強調されていて、政治が迷走する現在の日本を皮肉っている。
(おかむら良)