「この映画、タイトルほどに甘くない。」きな子 見習い警察犬の物語 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
この映画、タイトルほどに甘くない。
……動物映画は強い。公開2週目、しかも正午近くの上映回だったのに、お客の多いこと!
家族連れ、若い女の子達、中高年の夫婦の方々と驚くほどに広年齢層のお客が入ってほぼ満席。ビックリしましたよ。
まぁお客の入りと映画の出来が比例するとは限りませんね。レビューいきます。
前半は健全で微笑ましく、ほのぼのとした展開が続く。夢を抱いたヒロインが一筋縄ではいかない現実にぶつかるが、努力でそれを克服しようとする……
例えるなら、朝の連ドラにかなり近い。愉快だがこのままちょっとヌルい感じで、トントン拍子でハッピーエンドを迎えるのではと不安を覚える。
しかしである。後半、主人公の杏子は夢を諦めてしまうのだ。頑張っても頑張ってもうまくいかない。自分には無理だ、自分は自分の夢には向いていない人間なのだ、と。
夢を諦め、ソファでぼんやりTVを眺める無気力なヒロインの姿は妙に生々しい。僕ら自身、そんな姿と無縁な訳では無いだろう。
『努力すれば夢は叶う』という言葉は決して嘘では無いが、『努力する』ってのは口ですんなり言うほど生半可な言葉じゃないんだぜ……そんな甘くない現実が、この映画にはきちんと存在している。
主演の夏帆の演技を見たのは今回が初めてだが……凄いっすね、このコ。“演技してる”という感じを微塵も抱かせない、空恐ろしいほどのナチュラルさ。
中でも印象に残っているのが、おにぎりを頬張るうちに涙が溢れてくるシーン。よく理由もわからないうちに、こっちまで泣いてしまっていた。
夢に向かう情熱、それが挫かれた時の悔しさ、悲しさ、虚しさが、ストレートにこちらの心に流れ込んでくる。この映画、終盤でやや強引な(あるいは急ぎ足な)展開を見せるのだが、彼女のお陰で緊迫感と現実味を保つことができていたと思う。いや本当に、手放しで絶賛です。
いつもの調子ながら役にピタリとはまっている寺脇康文、優しい笑みが印象的な遠藤憲一、きっちり厳しい浅田美代子、そして、ほのぼのしてて可愛らしいきな子。
演出的には多少ヌルいが、適材適所な俳優陣+きな子の助けもあり、厳しさもあるが温かで愛らしい映画に仕上がっていた。
エンドロールの最後の最後に流れるテロップが素敵だ。『次こそは必ず合格してやる』と主人公達が笑う姿が目に浮かぶようじゃないか。
夢を叶えた瞬間より、夢を叶えようと必死になれる瞬間にこそ価値がある。
粋なハッピーエンドだ。
<2010/8/29鑑賞>