「熱くならずに、背景のように映画を流そう」借りぐらしのアリエッティ こばこぶせんさんの映画レビュー(感想・評価)
熱くならずに、背景のように映画を流そう
小人目線から見た世界がよく描かれた作品。
話(ストーリー)は単純明快。ただ、順接で話が展開する…いや、展開すらしない、だらっと過ごした夏休みの絵日記のような作品。
別に考えることもない。悩み、葛藤することもない。
一日が淡々と流れていく…ただ、それだけ。
人間から見れば、妖精とも考えられる小人の姿を見たというのに…。
小人から見れば、生活を追われて、種の存続を懸けて逃亡するというのに…。
話の展開がなく、順を追って話が進む。これは小学校低学年レベルの思考回路である。
だから、この映画のメインターゲットが小学校低学年であるならOK。
きっと彼らは「アリエッティ、引っ越せてよかったね」などと喜んでくれるであろう。
低学年向けだとしたら、話とキャラクターにかわいらしさが欠如しているが…。
小学校低学年以上の人もターゲットにしているとすれば、この映画で何かを伝えたくて、何かを考えて欲しいのであれば、完全に失敗である。
話のメリハリも、山や谷も、起承転結も、葛藤する場面もない。
相当深く行間を読まねば、中学年以上の子ども、料金を払う大人は、何も考えられない。
小人目線から見た世界は、細かく、とても繊細に描かれていた。
映像は美しく、そうかこういうふうに見えるかもね…という発見が少しあった。
残念なのは、小人目線から見た「人間」がほとんど描けていなかったこと。
よくとらえれば「人間=敵」という風にしか、あの種族では考えられていないからであろう。
悪くとらえれば、ただ単純に脚本力の不足であろう。
もう一つ残念なのは、設定に無理があったこと。小人と比較した、人間の日用品の大きさについては、小人の世界観を作り上げる上でも重要だから、練りに練ったのだとは思う。でも、たまに大きすぎたり、小さすぎたりしたように見えた。
アリエッティの髪留めは可愛いけど、あのクリップって、何用のクリップ?
あんな小さなクリップ、見たことないなぁ…。
また、人間の家の下に、あれほどの釘を打ち込み、「借り」のルートを作るのは容易ではなかろう。
これもよくとらえれば、「昔は小人もたくさんいて、皆で協力して作ったんですよ」ってことを暗示しているのだろう。
悪くとらえれば、そこまで思慮が及ばなかったのだろう。
心臓病みの少年・翔。
何故、彼は心臓病なのだろうか?心臓病の設定である必要があるのだろうか?
「君はボクの心臓の一部だ」とアリエッティに言ったところで、上手いこと言ったつもりなんだろうけど、設定が生きていないので、全然響かない。
小人とわかり合えたつもりになっている、独りよがりのセリフである。
心臓病であることは、小人遭遇率を高めるためだけの言い訳に見える。
心臓病だから、アリエッティ助けるためにゼエゼエ、別れを言うためにゼエゼエ…いつ倒れるか、そして、小人の利点を生かしてアリエッティが以下に彼を助けるかと、(話が展開していくことへの期待を込めて)ハラハラした自分が可愛そう…。何もおきなかった…。
ひたすら「はるさん」が悪い人。
小学生や幼稚園生の前に彼女が現れたら、石投げられます。
ネズミ駆除業者呼ぶし、主人の孫閉じ込めるし…。
キャラクターは躍動しない(新しいジブリの形だ)。
淡々と時間の流れる映画。
静かに時を過ごすには、話に自分を投影したり、感情移入したりせず、BGMよろしく映像を流しっぱなしにするにはよい映画だ。