劇場公開日 2011年3月18日

  • 予告編を見る

トゥルー・グリット : インタビュー

2011年3月7日更新

コーエン兄弟が新境地を開拓した話題作「トゥルー・グリット」。ジェフ・ブリッジス、マット・デイモン、ジョシュ・ブローリン、そして14歳の新人ヘイリー・スタインフェルドが肩を並べ、オスカーで10部門にノミネートされた同作は、コーエン兄弟作品のなかで史上最高のヒットをアメリカで記録している。アカデミー賞を控えた2月10日、ベルリン映画祭のオープニング上映に伴って現地入りした2人に、話を聞いた。(取材・文:佐藤久理子)

監督作品史上最高のヒットに、「自分たちでも驚いている」という2人
監督作品史上最高のヒットに、「自分たちでも驚いている」という2人

コーエン兄弟「トゥルー・グリット」で体得した“無欲”の栄冠
「マティが荒野を旅していくさまは“不思議の国のアリス”」

チャールズ・ポーティスの原作は、1969年にジョン・ウェイン主演により「勇気ある追跡」というタイトルで映画化されているが、実は兄弟の目的は、リメイクでも西部劇へのチャレンジでもなかったという。

2人のガンマンとともに少女が父親の仇敵を追い詰めていく
2人のガンマンとともに少女が父親の仇敵を追い詰めていく

イーサン・コーエン「『勇気ある追跡』は僕らが子どものころに公開されたから見ているけれど、ほとんど覚えていない(笑)。ジョン・ウェインは確かに当時アメリカ映画のアイコンだったけれど、50年代生まれの僕らにとっては年が離れすぎていて、特に僕の映画体験において重要な位置を占めているわけじゃない。むしろ今回、僕らの興味は純粋に原作にあったんだ。これは父親を殺された少女が復しゅうを誓うとてもシンプルなストーリーで、3人のキャラクターが物語をけん引していく。単純にとても映画的な素材だと思ったし、セリフが個性的で面白いところにもひかれた」

ジョエル・コーエン「それに西部劇を自分たちなりにひねる、というつもりもなかった。単純にこの物語が1870年代のアーカンソーを舞台にしているから、西部劇になっただけ。原作はやろうと思えば他の時代に移し替えることもできたと思うし、ポーティス自身も西部劇というジャンル小説にこだわっていたわけではないと思う」

それにしても、これまでフィルム・ノワールやスクリューボール・コメディなど、さまざまなタイプに挑戦しながら、つねに個性的なタッチを加味して来た2人だけに、今回西部劇を意識しなかったというのは驚きだ。しかもとても“おしゃべりな”西部劇という点で、異彩を放っている。

ジョエル「確かにおしゃべりな西部劇というのは珍しいね(笑)。だがそれも、もともと原作にセリフが多かったからだ。僕らは原作のディテールや、そのストーリーテリングに忠実でありたかった。それが僕らのひかれた点だから。本の要素を変えて、何かしら自分たちならではのカラーをつけ加えるという野心はなかったよ」

監督たちも驚いた驚異の新星ヘイリー・スタインフェルドと 一緒にモニターチェック中
監督たちも驚いた驚異の新星ヘイリー・スタインフェルドと 一緒にモニターチェック中

父親を殺された14歳のマティ(スタインフェルド)は、アル中で隻眼の連邦保安官ルースター(ブリッジス)とテキサス・レンジャーのラビーフ(デイモン)に犯人(ブローリン)追跡を頼み、自らも父親の形見のリボルバーを持って同行する。大人も舌を巻く頭の回転の早さと度胸を持つマティのキャラクターが、この作品にモダンで個性的な味わいをもたらしている。

ジョエル「この映画では、男たちは子どものようで少女の方が大人なんだ(笑)。それが新鮮なところでもある。僕らは彼女が荒野を旅していくさまを、“不思議の国のアリス”にたとえて考えていた。ちょうどアリスが鏡を見て、ワイルドで予想のつかない、ファンタスティックな世界に入って行くように、マティも西部に分け入って行く。彼女が川にたどり着くところで文明化された社会は終わり、その先の先住民族のテリトリーには異なるタイプの世界が広がっている。そこで彼女は新たなランドスケープに出会うんだ。ヘイリーは素晴らしかったよ。木に登ったり、水に浸かったり、馬を乗り回したり、この役はさまざまなアクションを要求されたけれど、彼女にとってはすべてがたやすいことのようだったね」

コグバーン役で旧知の仲、ジェフ・ブリッジスと
コグバーン役で旧知の仲、ジェフ・ブリッジスと

キャスティングといえば、「ビッグ・リボウスキ」で旧知の仲であるブリッジスと、コーエン組初参加のデイモンの顔合わせも新鮮だ。イーサンは「ジェフは気のおけない友人であると同時に、とても仕事がしやすい俳優だ。今回は脚本を書く段階ですでに彼を想定していた」と明かす。そして、ジョエルも、「マットのことは以前から知っていたけれど、ここ数年で俳優としてぐんぐん成長していたから、いつか一緒にやってみたいと思っていたんだ」と語った。

「ノーカントリー」では、オスカー8部門にノミネートされその半分を受賞したが、今回の新作ではそれを上回るノミネートとともに興行成績でも成功し、一般的にも完全に認知された印象がある。だがこうした成功の要因を問うと、ふたりとも困惑した表情を浮かべこんな答えが返って来た。

ジョエル「実は僕ら自身でも驚いているんだ。きっとホームビデオでカルト作品として受け入れられるのだろうと思っていたから。すごく不思議な感じだよ(笑)」

イーサン「まったく予測していなかったことだから、その理由を分析することもできないね。でも誰も予測できないのが、映画ビジネスというものだろう(笑)」

「トゥルー・グリット」の作品トップへ