「 まさに邦題通りの内容。抑制された映像が、かえって画面の隅々まで映画的な活力を感じさせてくれました。」冷たい雨に撃て、約束の銃弾を 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
まさに邦題通りの内容。抑制された映像が、かえって画面の隅々まで映画的な活力を感じさせてくれました。
評論家やレビューアーの評価が、極めて高くて、ある書き込みには「この映画、及び作家を知らないからと言って、無視してしまうのは、映画好きか否かを問わずに『勿体無い』 と断言・・・。」とまで書かれていました。
新橋の名画劇場で上映されていたので、なんとか見ることが出来ました。
原題の「復讐」のとおり、ストーリーはかなりシンプルな復讐劇。しかし、映像面では「香港ノワール」と呼ばれているジョニー・トー監督の世界観が濃厚に表現されていました。「ノワール」とは、40年代から50年代にかけてアメリカで作られた暗さを特徴とする犯罪映画。第二次世界大戦から赤狩りに至る暗い世相を反映した虚無的、厭世的な内容で、多くがモノクロで製作されました。フランス語の「黒」を意味する言葉で、本作でも夜の闇を舞台に、抑制された映像美で綴られていきます。
その代表的なシーンが、夜の森での銃撃戦。中国映画だからといって、カンフーは全く登場しません。あくまで激しい銃撃戦にこだわっています。その描写が独創的なもの。月の光が閉ざされて漆喰の闇が支配するとき、森の中で銃弾の閃光が瞬き、命中したとき血しぶきがこれも閃光のように赤く瞬くのです。戦うものたちの心臓の鼓動が伝わってくるかのような緊迫感をたっぷりと堪能させてくれました。
こんなダーティな様式美の映像は、トー監督ならではのものでしょう。加えて主人公の山高帽に黒のトレンチコートといった出立ちや渋いキャラクターと相まって、すっかりトー監督の世界観に酔いしれてしまいました。小地蔵が語るのには口幅ったいかも知れませんが、男のロマンを擽られる作品なのです。
もう一つのトー監督の特徴は、男の絆を感動的に描くこと。主人公が偶然雇った殺し屋たちは、主人公に同じ殺し屋の気配を感じ、仲間意識を深めていきます。主人公が記憶を失っても、受けた依頼を反故にせず、自分たちを雇っていたボスの犯罪組織に立ち向かって殺されていきました。殺し屋という悪人でも、一度誓った義理は、命がけでも果たす。任侠映画にも通じる打算のないカッコイイ生き様を見せつけてくれました。
まさに邦題通りの内容。抑制された映像が、かえって画面の隅々まで映画的な活力を感じさせてくれました。
ストーリーは、マカオに住む一家の惨殺事件から幕開けとなります。そこにフランスから元殺し屋の初老の男ジョニー・アリディやって来ます。一家のうち唯一生き残った瀕死の娘のためにジョニーは復讐の鬼と化すのです。外国人であった彼は、地元の警察の捜査だけでは満足行きませんでした。そこで偶然知り合った3人組の殺し屋を雇い、力を合わせて裏組織と黒幕に立ち向っていきます。
ストーリーは、この手のハードボイルドにありがちなものですが、トー監督にかかると香港やマカオの町並みががどこか外国の暗黒街の出来事のように感じられてしまうのが不思議なところです
ジョニーは殺し屋時代に、頭に銃弾を受けて、記憶がなくなるという障害を持っていました。「復讐」そのものの記憶が徐々に消えていくという時間との戦いをしていたのです。しかも仲間の殺し屋たちは皆殺しにされてしまう事態に。このまま終わりなのかと思っていたら、そうは問屋が卸しません。
テレビで殺し屋たちの殺害を知ったは、我に返り、憤然と単身仇敵退治に乗り出していきます。当然ラストの襲撃戦は、溜飲が下るようなジョニーの黒幕への追い込みが見物です。
そして全てが終わったとき、ジョニーが見せる哀愁漂う安らぎの表情に、胸が熱くなりましたねぇ。
男のハートを熱くさせるハードボイルド作品をお探しの方に特選しておきます。