「『経済的価値無し』のレッテルを貼られた人間には生きる価値すら認められないのか [各所修正]」春との旅 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
『経済的価値無し』のレッテルを貼られた人間には生きる価値すら認められないのか [各所修正]
リアリティと寓話的な雰囲気とを併せ持ったロードムービー。
仲代達矢演じる偏屈な老人は、長く疎遠になっていた兄弟達に居候させてくれるよう頼んで回るが、次々に拒絶される。
それは彼の身勝手な言動が祟っての事でもあるが、一番の理由は、彼が脚を悪くして働くこともできないからだ。
風の吹き荒ぶ寂れた街並みが、僕自身の故郷とダブって見えた。閉めきった店が目立ち、高齢の人々ばかり目につく街。
いつ食えなくなるかも分からない生活に対する不安や、齢を重ねる毎に強まる孤独感のようなものが、映画全体を重く覆っているように思える。
その日暮らしの生活を送る人間に、働けない者を養う余裕など無い。ましてや今は、近隣住民が助け合って生きていたという古き良き時代でも無い。
そんな時代においては、『社会的(経済的)に不要』とのレッテルを貼られた人間は、最早生きる価値すら認められないというのか。
「それなら俺、生きられねぇじゃねぇか」
寂しげに笑いながら呟く仲代達矢の台詞が、ズシリと重い。
“生きられない”老人と孫との旅は、結果的に『拙いながらも人と人とは繋がっている』という事を孫に伝える旅になった。孤独を埋め合うように生きてきた老人が消えても、彼女はきっと生きていける。物語の結末は、彼女を解放するという意味では最良の結末だったのかもしれない。
と同時に、こんな結末が『最良』となってしまうのが今の時世なのかと思い、やりきれない気持ちになった。
良い映画だと思うが、不満もある。
物語が終盤に近付くに連れ、映画はだんだん人工的な臭いを漂わせ始める。台詞がどんどん説明的になってゆくのだ。
特に香川照之との会話はまるで手品の種明かしでもしているかのようにとにかく喋り過ぎる。皆まで言わずとも観客は分かってくれます。逆にこれでは作り物臭さが増して、夢から醒まされたような心持ちになる。
音楽も主張しすぎだ。良いシーンでここぞとばかりにがなり立てられては興醒めだ。
最後に役者さんについて。
脇役に至るまで素晴らしい演者が配されたこの映画だが、中でも主人公を演じる全キャスト中唯一の20代、徳永えりが頑張っている……物凄く頑張っている。
芝居が一本調子という感じもしなくはないが、仲代達矢を始めとした超大御所の群れを相手に一歩も引かない堂々たる演技。祖父に対する心配と嫌悪とが入り交じった眼差しが素晴らしく良い。今後の期待大です。
<2010/5/22鑑賞>