「人間の強さと弱さが現代人の心にも突き刺さる」必死剣鳥刺し マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)
人間の強さと弱さが現代人の心にも突き刺さる
セットはもちろん、所作や小道具にも気が配られた、久々の本格的な時代劇。カメラワークと効果音にもそつがない。閉門のための青竹は月日がたち薄茶となり、作物の茂る畑にはにわか雨が降り、やがて火鉢のいる寒い夜を迎える。さらにカメラは三左エ門に密かに恋心をよせる里尾の心情をとらえ、現代とは違う時間の流れを巧みに汲み取ってみせる。
現在と、過去の回想を交互に差し替えながら核心に迫る手法をとるが、度重なる回想シーンがほかの作品でよくあるようにうざったくない。ひとつは、男と女の機微を徐々にたぎらせていく様子を浮き彫りにし、いまひとつは、なぜ寛大な処分が下されたのか、最終的にその謎の核心を衝撃的に晒す効果に繋がる。
もうひとつ効果的な演出が、ラストの死闘における峰打ちだ。罪のない同胞を切ることにためらいを持つ三左エ門は刃を返す。だが、多勢に無勢、傷つくうちに刃は表に返され、柄を強く握りなおす瀕死の男となる。これは、連子を刺したときとは違い、生きる目的を持った男の心情の現れであり、同時に半死の状態ゆえ繰り出される秘剣“鳥刺し”に最高の出番を与える。
細かな演出の積み重ねが、武士道、藩政における個人、そして男と女の情愛までも描き、不条理ながらも一心に生きる人間の強さと弱さは、現代人の我々にも深く心に迫るものがある。
暇を出され、この屋敷、この男の傍を離れたくないという里尾の心情にはグッとくる。
池脇千鶴の泣きに泣かされた。
p.s. 勘定方の役で鯉昇師匠が登場。これがなかなかに巧い。しかも連子に責められる悲惨な役どころなのだが、師匠のお顔を拝見した途端、笑いがこみ上げてくるのを堪えるのは至難の業でござった。
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