「いつしか借金が嵩んでいったのは、世間様に合わせていった結果」武士の家計簿 えすけんさんの映画レビュー(感想・評価)
いつしか借金が嵩んでいったのは、世間様に合わせていった結果
加賀百万石の財務を担った猪山家、倒幕進む幕末の時代に家芸を全うした算盤侍の生涯を描く。
末期とはいえ、江戸時代は何気ない日常生活にまで様式美が溢れている。
賛否はあるにせよ、家父長制のもと、食事の席次が決まっているのも、機能的にはたぶん何の役にも立たない裃を身につけたりするのも、様式美のひとつだ。
様式美は、その根源の意味が希薄になればなるほど、横並びの思考を肥大化させて行く。
とりあえずよそ様がやっているのだから、こういう時はこうするものだから。
大衆化した先に「世間様」「体裁」「体面」といった日本特有の過剰とも言える他者意識が産まれる。
猪山家は、特段、酒が好き、賭博好きといった破天荒なわけではないし、常軌を逸した派手好き、見栄っ張りというわけでもなさそうだが、いつしか借金が嵩んでいったのは、世間様に合わせていった結果と言える。(これは田舎に住むとよく判る)
そうした不可視な世間様に惑わされることなく、家芸を根っこに据えた家内再建と長男への教育に峻厳に臨む直之の、算盤侍といえども武士のプライドを大切にする姿勢がうまく描かれている。実際、世間様が希薄になった明治の世で、長男は家芸で出世する。
家って不思議な単位だ。寺の子は頭を丸め、侍の子は刀を握り、算盤侍の子は算盤をふる。たまたまそこに生まれてしまったが故に、何かに縛りつけられることを不自由と断じていいのか、ちょっと悩む。決まりきっているからの自由。益も不益もある自由が、日本らしくていいなと思ったのは、それだけ僕も歳を重ねたからだろうか。
コメントする