「わたしたちは思い込んでいる」武士の家計簿 マツドンさんの映画レビュー(感想・評価)
わたしたちは思い込んでいる
You Tubeにある磯田道史さんの講演によると、江戸末期の武家社会の経済は破綻していた、そうです。だから、百万石の加賀藩ですらも、倹約に励まなければならなかった。
それは、武士の経済システム(年貢や武士のお金の使い方)が、江戸初期には社会のあり方にピッタリだったけれど、末期にはダメダメになっていた、ということ。町人がパワー全開になっていたのに、彼らからは0.?%の税金しかとらなかった、というからビックリ!システムは一度、安定的になると、徐々に破綻しても変革されにくい。徐々に、という点がポイントで、年貢とは「農民から米」という常識ができると、破綻していっても別の発想「町人から金」にいたらない。思い込みから抜け出せない私の生き方。現代日本のあり方。同じです。は~ぁ、って感じ。
そんな幕末に生きた、主人公の猪山直之さん。現代的視点から見れば、ちょっと、自閉症スペクトラムが入っているのかな。いわゆる、常識人がストイックに生きた、というのとは違う、そんな発達障害仮説の立場から、この映画を鑑賞させてもらいました。
そう考えると、彼の不正追及、家財の売り払い、駒との初夜や父親の葬儀のそろばん勘定も、彼にとっては自然な行動。社会常識や世間体など大した問題ではなく、勘定をきちんとしなければ気持ち悪くて我慢ならない、ってことでしょうか。
一家の生きる道は、お家芸『そろばん』!その真っすぐさが心地よく、幕末から明治への変遷を乗り切っていく力になります。でも、よく考えてみると、「そろばんしかない」っていう思い込みは、「米しかない」っていう幕府の思い込みと相似形。思い込みのおかげで、片や存続、片や破綻。人の世は、なんとも面白きもの、です。