劇場公開日 2010年12月4日

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武士の家計簿 : インタビュー

2010年11月29日更新

堺雅人と仲間由紀恵が初共演を果たした「武士の家計簿」が、12月4日に公開される。幕末から明治維新という激動の時代を、家族で助け合いながら、つつましく堅実に生きた下級武士一家を描く物語。時代劇だが、殺陣のシーンはない。聞こえてくるのは刀ではなく、そろばんを弾く「パチパチパチ」という音だ。(取材・文:編集部 写真:堀弥生)

堺雅人と仲間由紀恵、愛情あふれる“断捨離”夫婦に

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第2回新潮ドキュメント賞を受賞した磯田道史著の歴史教養書を、森田芳光監督が映画化。堺は、財政悪化で倹約生活を余儀なくされながらも、加賀藩の算用者(現在の会計係)として、そろばんの腕ひとつで家族を守る武士・猪山直之を、仲間は明るく献身的に直之を支える妻・お駒を演じている。

「直之は自分の仕事に淡々と向き合い、能力をことさらアピールしない。覚悟を決めて信じた道を進む男というのは、凛々(りり)しくて格好いいですね。また、直之にとってお駒の存在は大きかったと思います。後ろに寄り添ってくれるだけで、その人の体温を感じて心強く思う、そういう気持ちにさせてくれる人がいるというのは大事なことですよね」(堺)

「ほかの武士は躊躇(ちゅうちょ)してしまうようなことでも、直之は迷わず決断する人。まじめすぎる、堅物すぎるという人もいるかもしれませんが、家族のために意志を貫き通す姿はとても男らしいと思います。お駒は直之に出会って、一緒に生きていくのはこの人だと確信したんです。窮地に立たされても直之が引っ張ってくれたからこそ、信じて頑張ることができたのだと思います」(仲間)

武士は出世するほど家計がひっ迫していた時代。直之は借金返済のために、茶道具や江戸袖、弁当箱といった家財道具を売り払うべく、得意のそろばんをはじく。

息子の袴着の祝いにもひと工夫
息子の袴着の祝いにもひと工夫

「そろばんは小学生のときに何回か習ったきりで、ほとんど知識はありませんでした。今回、名人級の先生に教えていただいたのですが、始めて40分くらいで“これは撮影までとても間に合わない!”と。ズブの素人が、ピアニストを演じるようなものですからね。先生とのレッスンは3回くらいしかなかったので、ごまかし方を教わって、あとはひたすら自主練でした。ピアノでいう4小節のメロディみたいなものをそろばんで3パターン用意して、劇中ではそれを組み合わせています」(堺)

「そうだったんですね! すごくなめらかな手さばきに見えました。去年の末、京都の撮影所で寒いなか、こたつに入りながらパチパチ練習していましたね(笑)」(仲間)

「そうですよ、NHKの紅白歌合戦を見ながら。そうしたら、妻(仲間)が司会をやっていて(笑)。びっくりしますよね」(堺)

森田監督は、これまでの時代劇になかった新しい視点で武士の生活を描くことにこだわった。一尾の魚を有効活用し、美味しそうにお膳を囲む姿、手書きの碁盤と貝殻で囲碁に熱中する姿など、当時の武士一家の知恵と愛情にあふれた暮らしぶりが、ユーモアを交えて映し出されている。

「撮影中は直之のことばかり考えて集中していたけれど、初めて試写をみたときに、“ああ、これは家族の映画なんだな”ということを感じました。淡々としたなかにある温かさ、距離感みたいなものが、森田監督ならではの味。すごくステキだなと思いました。あと、個人的には監督から“あまり笑顔を見せないでください”と言われましたね。重要な演出だったのに、つい先日までコロッと忘れていたんですけど、確かに今回の僕は笑顔が少なめになっていますよ」(堺)

森田監督らしい温かな家族の物語
森田監督らしい温かな家族の物語

「私はテレビのお仕事だと“もっとびっくりしてください”とか、感情を大げさに表現するよう要求されることがありますが、森田監督には“意識して表情に出さなくても、気持ちというものは結構伝わるものだから大丈夫です”と言っていただきました。監督のその言葉があったからこそ、直之を一歩下がって支えるお駒という女性を演じることができたのだと思います」(仲間)

今年の流行語大賞候補になった「断捨離(だんしゃり)」という言葉は、不要なモノとの関係を断ち、身辺をシンプル化するという概念だが、同作のなかには、まさにそのお手本となる質素ながらも満ち足りた生活のヒントがちりばめられている。

「僕は“断捨離”男子ですよ。倹約と聞くと、ケチケチした話だと思いがちですよね。でも、この映画にはそれを楽しむ女性たちがいて、温かく見守る人たちがいて、みんな格好をつけることはできなくても、生きること自体を楽しんでいる。形がどうであれ、前向きに生きる人の姿は気持ちがいいものだなと思いますね」(堺)

「直之の家族は借金を抱えて、仕方なく家財を売り払うわけですが、今の私たちは節約よりその一歩手前の、当たり前のきちんとした生活に建て直すところから始めないといけないような気がします。私もずっと仕事をしていると、毎日掃除機をかけるわけではないので、気が付くといろいろなモノがたまっていると思いました。だから、節約ももちろん大事ですが、まずは普通のきちんとした生活をしなさいと、この映画に教えられたような気がします」(仲間)

「撮影中も“私、片付けようかしら”ってきれいにしていましたもんね」(堺)

「頑張って片付けて、必要なモノとそうでないモノを選別して」(仲間)

「“断捨離”した?」(堺)

「“断捨離”しました(笑)」(仲間)

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