「親になること。」ジーン・ワルツ ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
親になること。
海堂尊の医療ミステリーは映画やドラマで観てきたが、
今作は色合いの違うヒューマンドラマという仕上がりで、
あまりミステリーにはなっていない。
先日観た「うまれる」によく似た、産婦人科の話になるが、
今現在の法律では代理母出産は○×…というのも含めて、
勉強にはなった。でもとどのつまりは、赤ちゃんが欲しい。
自分達の子供が…。と切に願う夫婦の前に立ちはだかる
不妊、婦人病、染色体異常、などの問題に今後の医療は
どう対処していくべきなのか。ということなのだろうと思う。
今の日本の法律を変えるのはかなり難しいようだ。
菅野美穂が演じる曾根崎理恵という医師は、
自身が勤めるマリアクリニックで、ある疑惑を持たれている。
彼女の講義を聞いていると、確かに出産への意志がかなり
強固なものであり、何かあるのだろうな…というのに気付く。
子供を持ちたくてもなかなか恵まれない夫婦や、中絶希望の
ヤンキー女子、かなりの高齢出産、とワケありの患者ばかり
が訪れているそのクリニックに隠された謎とは何か…。
原作ではこの主人公はもっと冷徹で合理的、あまり感情の
行き来が描かれていないそうだが、映画版ではなかなか
そのあたりを巧く見せていた。核となる高齢出産の女性が
実は誰だったのか。というのを中盤でネタばらししたうえで、
話をさらに広げている。理恵の辛い過去や、上司の清川との
関係も段々明らかになってくるが…。
扱われているテーマは、記憶に新しい妊婦たらい回し事件、
実母を使った代理母のニュースなど、リアルに迫っているが、
それらをどう変えていくか(今の状態を)という挑戦らしい。
体制の内側から、外側から、理恵の計画はそういうことらしい。
どんな治療を施し、夫婦で力を合わせ、他人の力を借りてでも、
欲しいものは欲しい。という強い熱意はとても分かる。
でもその半面、子供が生まれることは奇跡であって欲しいと、
やはりそんな風にも思ってしまうのだ。
そのことだけに何年も月日を費やし、夫婦で疲れ果ててしまう
生活というのは、私には見ていて辛かった。
子供のいる私には、簡単に分かりはしない苦労に違いないが、
でも、夫婦ってそのためだけに存在しているんじゃないはずだ。
今作でも描かれる父親のいない子供を出産した女の子にしても
これからの生活の方が、ずっと長く大変なのである。
産めば幸せ=これには違いないが、ただそれだけではないと
いう決意、のようなものが今作で描かれればいいのにと感じた。
そんな意味では一組、難病胎児中絶を決断した夫婦の内情が
他とは違ってリアルに胸に響いた。こんな思いをした夫婦には
命の尊さがどれだけ強く刻まれることだろう。その奇跡や尊さが
生きていくためにどれだけ大切になっていくか。が感じられた。
そして理恵の母親。さらにマリア院長。
彼女達の決断は(良い悪いを別として)子供を持つ全ての母親に
通じるものを感じた。自分の命を賭してでも守りたいものが何か。
ミステリーとしてはいまいち、やはりドラマとして観るべきか。
(浅丘ルリ子はさすがの厚化粧^^;ながら、見せ場を奪う名演技。)