「悲しき七三分け」ジーン・ワルツ ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
悲しき七三分け
クリックして本文を読む
「チーム・バチスタの栄光」で知られる海堂尊原作の医療ミステリーを、「NANA」の大谷健太郎監督が映画化。
「命とは」「出産とは」この2つのテーマを軸に、菅野美穂演じる産婦人科医が仕掛けた秘密を解き明かすと共に、出産を前に戸惑う4人の女性の戸惑いと苦しみ、そして希望を描き出す重厚な作品。その背景に海堂作品に付きまとう医療への不審、抵抗が加わり、何層にも入り乱れるミステリーが展開されていく。
だが、そうかといってこの作品を手放しで傑作と賞賛することが出来るかと言われると、そこは大いに困惑せざるをえない。何故か。物語全体に漂う消化不良の不快感が、いくら拭っても拭っても消えないのだ。前衛舞台の台詞回しの如く耳障りな会話の応酬。肝心の手術シーンに流れる怠惰な会話。いらない間。原作の中でこそそれらは活きたのだろうが、果たして映像に置き換えた上での効果を考えたのか。
そう、原作のもつ良質なエッセンス、要素を丁寧に抽出してこそ映画として完成するはずの世界が、何とか物語を無駄なく繋げようと原作の台詞を無理に引きちぎり、取って付けてしまったような乱雑な歪さが鼻につく。「ラフ」のような良質かつ瑞々しい作品を作り上げる技量を持つ大谷監督と、数々のテレビ、映画で活躍する林民夫脚本のチームならここまで適当な作り方はしないはずだが、原作が生まれでてからそれほど時間が経たない、今このときの映画化。田辺誠一にキュートな七三分けをさせて可愛く見せても、見切り発車の面は拭えない。
それこそ、産みの苦しみを逃げようとはしていないか。単なる痛み回避のための帝王切開ならば、こちらから願い下げである。
コメントする