「悪人であり善人であり。」悪人 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
悪人であり善人であり。
観ていて気持ちのいい作品では決して、ないが…
じっくりと腰を据えて考えさせられる佳作だと思う。
悪人。と切り捨てててしまえばそれまでの人間も、
本当にそうなのか。と思わせる柔軟性、
善人。と思われていた人間が、本当にそうなのか。
と一考させる疑問の投げかけ方。
原作はチラ見(いつもすいません)程度なのだが、
なんかスッキリしない感が残って、映画版の方が
分かりやすいラストのような気がした。
考えても考えても、誰が悪人だ。と決められないのは
どんな人間も悪人の身に善の皮を被っているからだ。
欲を剥き出しにし、はしたないと思われたくないから
なんとなくカッコいい自分を演出したりはしてみても、
しょせんお体裁など相手によって簡単に見抜かれる。
このヒトならと思い、真の自分の姿を見せた時、
怖いとか、気持ち悪いとか、バッカじゃねえのなんて
酷い台詞を浴びせられて、一気に逆上してしまった、
なんていう事件が昨今でも起きているように思うが、
ではその、酷い台詞を浴びせた人間が悪人なのか。
いや、手をかけた人間こそが悪人なのだろうか。
いやいや、そんな子供に育ててしまった親はどうだ。
…考えるとどこまでも果てしない(汗)。
個人的にはとにかく孤独の果ての寂しさがこの上なく
冒頭からのしかかり…何でこんなに辛いんだろうかと
観ていて胸が苦しくなった。もともと孤独に生きてきた
人間にとっては孤独感は友達のようなものだと思うが、
満たされない想いが欲情と化し、一気に加速し、その
やり場のない怒りに満ちた行為には愛が感じられない。
差し出されたお金によって、買われたという屈辱感。
あの時の、彼女の失望はどれほどだったろうと思うと
心から泣けてくる。まぁ所詮、出会い系で知り合う仲、
お金同様に割り切ってしまえ。ということなのだろう。
私には解せない…が。
ただ今作に登場する祐一という青年は、妻夫木くんの
キャラもあろうが^^;あまり悪人には見えず、いや、善
のイメージが強すぎるんだろうな…いいヒトに見える。
自分の孤独を、なにでどう消化させればいいのかが、
分かっておらず、とりあえず女と逢って快感を求めて
いたが、真の快感(というか幸せ)を光代という女から
貰ったことによって、活きることに目覚めてしまった。
とはいえすでに殺人を犯した身体、罪を償おうと決意
したその時彼を止めたのは、意外なことに光代だった。
彼女もまた、酷く愛に飢えていた。
深津絵里の演技は確かに受賞も納得の巧さだったが、
彼女は昔からこういう役をやってきたように思えるし
それがまたよく似合っている。ので特に意外性はない。
悪といえば徹底して悪い男を演じた岡田将生の演技力、
それを傍で見つめる友人・永山絢斗の目線、何気ない
バスの運転手からの一言など、僅かな救いともとれる
温かな視点が共同脚本から生まれたことが幸いと思う。
なにはどうあれ、誰かを想い邁進する人々の気持ちを
もっと大切にしなければいけない世の中になっている。
人の気持ちをぞんざいに扱えば自分に反ってくるのだ。
娘の殺害現場に花を手向ける父親を遠目に、タクシー
運転手に向かって話す深津絵里の表情を捉えたラスト
は秀逸。悪人を愛してしまった、と言いながら後悔は
していない凛とした態度と意志の強さには目を見張る。
出逢う順序が逆なら悲劇は起きなかったかもしれないが、
いとも簡単に出逢い、車に乗り、人目のつかない所へ
向かう先に、事件性がないなんてあり得ないと思えるが。
(出逢いそのものを大切にする風潮が懐かしいこの頃。。)