劇場公開日 2010年9月11日

「濃密な世界」悪人 xtc4241さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5濃密な世界

2010年9月13日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

知的

皆さん、こんにちは(いま9月13日11:55頃です)

祐一は、無口で、ほとんど表情に出さない。でも、いったん、その感情があふれ出すと、とてつもない行動を引き起こしてしまう。
一方、光代は無口な彼にコミュニケーションしようと、いつになくしゃべる。
そして、祐一が人を殺した男と知ったとき、どうすればいいのか。離れるべきかとも一瞬迷うが、自分をこんなに求めていたひとはいなかった。

そんなふたりの逃避行。
これから先に幸せが待っているはずもない。そう、普通の人がみれば、破滅だけが口をあけて待っている、そんな状況である。
可能性が広がっていればいるほど、ひとの意識は拡散されていくけれど、時間的にも空間的にも、あとがなく、狭ければ狭いほどその世界は濃密になる。
そして、相手のことを、相手以上に愛してしまう。ラストに近くなって、祐一が捕まりそうになったとき、光代を絞め殺しそうとする。それが、唯一してあげられることだから。光代の恍惚とした表情が印象的だ。

かりそめの安息の場所が、灯台である。そこは、冷たくて強い風が吹いていて、とても寒いけれど、ぬくもりを求め合うには最高の場所だ。
夕焼けが美しい。冷たいが風が気持ちいい。どこかで見た映画のように両手を広げる。ほんの少しだけ祐一に笑みが浮かぶ。祐一が着ていた赤いフリースを、光代が着ている。言葉にはしないけれど、そんな何気ない場面が素敵だ。

この映画は、このふたりだけが主人公ではない。
殺された女子社員の父親(柄本明)や祐一の祖母(樹木希林)が、この事件とともに、どんな生き方をするのかが並行的に描かれている。
また、殺された女子社員を満島ひかりが演じているのだが、そういったサブ・ストーリーもなかなか味わい深いものがある。
ただ、そこまで想いを届かせるには、ちょっとしんどいなと思うのも事実だ。
でも、こんなこってりとした濃密な映画もめずらしいのではないか。

その李相日監督の前作は「フラガール」。3年前、日本の映画賞を総なめにした監督である。彼は同じ場面を何度も何度も撮りなおすという。OKが出て、何日か過ぎると「あのシーンが気になっているんです」と再度、撮り直すこともあったという。
ハリウッドでいうとマーティン・スコセッシのようにしつこく粘り強く、妥協がない。
(といっても完璧はありえないのだが・・・)

ひりひりするような撮影現場が、想像されるけど、だからこそモントリオール映画祭で主演女優賞を受賞したときの深津絵里のことばが納得できた。
「監督の最後まで妥協を許さない演出と、その思いに応え続けたスタッフの皆さん共演者の妻夫木さんや皆さんで戦った証。みんなで勝ち取った賞だと思ってます」

xtc4241