劇場公開日 2010年3月6日

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イヴの時間 劇場版 : 特集

2010年3月4日更新

08年からネットで配信された1話15分の短編アニメ全6話を再構築・再編集した「イヴの時間 劇場版」が3月6日より公開される。ロボットが実用化され、各家庭には人間型ロボット=アンドロイドが普及した近未来、「人間とロボットを区別しない」という不思議な喫茶店“イヴの時間”を舞台に、そこに集うさまざまな人間やアンドロイドたちが織り成す人間(?)模様を描くドラマだ。公開劇場が直前になって増やされるなど、一部でアツい視線を集めている本作について、長江努プロデューサーにインタビューを敢行。その異例のビジネス展開の裏側を紐解く。(取材・文:斉藤守彦)

WEB配信からDVD、そして劇場公開へ…
“作品へのリアクション”が生んだ「イヴの時間」の裏側

WEBから始まった作品として成功を収めている「イヴの時間」
WEBから始まった作品として成功を収めている「イヴの時間」

「イヴの時間」は、ネット配信からスタートして、DVD、劇場版という、極めて珍しいビジネス・サイクルをたどっている。こうしたビジネス展開を行ったのは、いかなる理由なのだろうか? プロデューサーを務めた長江努さんに聞いてみた。

少人数での制作ながらクオリティの高さは評判
少人数での制作ながらクオリティの高さは評判

「吉浦(康裕)監督の前作『ペイル・コクーン』(OVA)をプロデュースした際、吉浦作品は劇場映えすると強く感じたこともあり、今回も最初から劇場版を意識して企画は進めました。ただいきなり長尺の作品を、グループワークとはいえ少人数の制作体制で作るのは、いろんな意味でリスキーだと思い、15分の連作モノを監督に提案しました。15分だと配信という手段が可能となり、より広い層の客層に作品および監督を知ってもらえるきっかけにもなるかもしれないし、全部完成したあかつきには再編集して劇場でもかけられる尺になるし……と考えていました。その後、幸いにもYahoo!動画の旦さんから興味を持っていただけて、とんとん拍子に配信が決まりました」

「イヴの時間」の配信が始まるや、全6話の視聴数が累計300万回超という記録を樹立する。だが配信中も制作現場は、修羅場の状態だったようだ。

「いざ配信が始まってみると、想定していたペースではとても制作が進まず、3話目を配信した後、通常2カ月後の配信になるはずの4話目が、4カ月空けないと完成できないことが判明し、相当焦りました。2カ月という間隔でも視聴者の方々が次のお話を待つのには長いブランクなのに、4カ月となると意識の上ではいったんリセットといってもいいくらいのブランクになるわけで……。そんな時に苦肉の策として思いついたのが、シングルDVDを限定リリースすることで、そのブランクを埋めようというアイデアでした」

面白いのは、最初からビジネス・ルートを設定したのではなく、作品そのものへのリアクションと、様々な事情が絡み合い、その時どきで打った手がすべて成功している点だ。

さまざまな人との出会いによって成長していった
さまざまな人との出会いによって成長していった

「結果として、その間リリースしたDVDはいずれも完売。また東京テアトルの沢村さんが『イヴの時間』を中心としたオールナイト上映会を催してくださり、そのご縁が最終的に今回の劇場版に繋がることになったり、さらには作品を気に入って下さったドワンゴの相田さんがニコニコ動画での配信も決めて下さったりと、かつてない充実したブランク期間となりました。ネットでの再生数もこの期間に大きくブレイクしました。作品を愛して下さるキーパーソンとの出会いが、このプロジェクトをここまで盛り上げることに繋がりました」

プロデューサーとして、吉浦監督とはどのようなやりとりを経て「イヴの時間」を形成して行ったのだろうか?

「ボクは単なるインベスターではないし、吉浦監督のような個人制作のクリエイターとアイデアをやりとりしながら作品を一緒に作って行くのが楽しくて、こうしたプロデュースを手掛けている部分が大きいので、当然、監督とは設定やシナリオの細部に至るまで、ブレストやメールでの意見交換を相当重ねました。あとキャラクターの顔の造作にしても、ボクの中では“吉浦美人”という理想像があって、そこに近づけるためにキャラクターデザインを手掛けてくれた茶山隆介さんにも相当ダメ出しをさせてもらいました」

長江Pから見て、「イヴの時間」がここまで多くの人たちを魅了したのは、どこが受けたと考えているのだろう?

個性的な登場人物たちの掛け合いも絶妙
個性的な登場人物たちの掛け合いも絶妙

「顧客にアピールするのは、やはり吉浦監督が作り出すリッチな映像世界と、登場人物たちを活き活きと動かす絶妙なセリフの掛け合い、そして今時珍しいと言っても過言ではないストレートな近未来のSF劇といった組み合わせは、他に類するものがないと自負していました。“そこの席はまだ空いてるはず”と思っていました」

「イヴの時間」以降も、若いクリエイターと組んで、新しいビジネス展開を行う予定があると、長江プロデューサーは語る。

「この10年間、プロデューサーとして『デジタルスタジアム』(NHK)というクリエイター発掘番組を手掛けてきたので、ボクの周りには吉浦監督以外にも優秀なクリエイターたちが多数います。そうした子たちが作家として大成するためのプロデュースを継続して行くことこそがボクの使命だと思っています」

インタビュー

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