劇場公開日 2010年12月18日

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「何のために生きるのか」最後の忠臣蔵 FUMITさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0何のために生きるのか

2010年12月3日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

泣ける

悲しい

単純

池宮彰一郎の同名小説の映画化作品。
12月といえば「忠臣蔵」。いわゆる「赤穂浪士の討ち入り事件」を題材にした作品は枚挙に暇が無いけれど、この「最後の」というタイトルは一体どういう意味なのだろう...?そんな素朴な疑問を抱きつつ観たこの映画。
主演に役所広司、準主役として佐藤浩市を配してはいるけれど、ちょっと地味で渋い印象だったな。

ストーリーは「忠臣蔵」と言っても定番の【討ち入り】を題材とはしておらず、簡単に言えば【討ち入り事件のその後】【残された人生】を描いている。そこに「最後」の意味が含まれている感じ。
佐藤演じる「寺坂吉右衛門」は、罪人として処罰される浪士たちの残された親族に力を貸すという使命を受けて生き延びる。
そして主役・役所の演じる「瀬尾孫左衛門」は討ち入りの立役者である主「大石内蔵助」からの重要な密命を受けて討ち入り前に逐電(脱盟)する。その密命とは大石の【隠し子(赤ん坊)】を安全に逃がし育て上げるという大役だった....。

仇とはいえ、徒党を組んで夜襲をかけ重臣殺害に及ぶという犯罪者から一転、忠義に殉じた義士ともてはやされた四十七士。
一方で切腹することも許されず残りの人生を使命のために生きる者。その対比が哀しく映ったな。
また、食い詰め浪士が武士を捨てたような姿に身を変え、人知れず隠遁生活の中、それでも心に秘めた忠義心に生きる姿が切なかった。

しかしながら男としては、この「武士の生き様」には強い憧れを感じてしまう。
「生きる指針」「自らの使命」が明確になっている生き方はとってもうらやましく思えるから。

今の時代「何となく、成り行きで生きている」という人ばかりなのではないだろうか? もちろん自分も含めて。
自分が何のために生きているのか、そんなことを考えることも滅多に無いのではないだろうか?
目的地を失った現代人。確かに文明は栄えて便利にはなっているし、一定の自由は手に入れているけれど、精神的には不幸になっているように思えてならない。

もちろん、別の視点で見て考えれば、この封建時代も、そして近代の軍国時代も、「幼少時代からの刷り込みによる滅私思想」なのかも知れない。

それでもなお、根無し草のように地に足の着いていない現代社会の我々に比べ、よっぽど精神的に安定していた時代だったように思えてならないんだよね。

映画の終り、瀬尾孫左衛門はついに長年の使命を終え、亡き主に預けていた命を返却される。
そしてついに、その命を自分の意思で使うことが許される。

彼はきっと達成感と大きな幸せに包まれた人生を実感できたのではないだろうか...。

作品の見所としてはこの他、同じ目的に生きた者達の強い心の絆、そして孫左衛門と可音(大石の忘れ片身)の愛情や心の機微等、と、胸をうち涙腺を刺激する場面も多くあったよ。

地味な作品ではあるけれど、大人の鑑賞には充分耐えられる佳作だと思ったな。うん。

FUMIT