劇場公開日 2010年10月2日

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「映像的には素晴らしいけれど、オカマ目線が露骨すぎますぅ(^_^;)」シングルマン 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0映像的には素晴らしいけれど、オカマ目線が露骨すぎますぅ(^_^;)

2010年9月28日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 本作は、冒頭からスタイリッシュで繊細な映像に圧倒されてしまいます。最初に登場し、何度もリフレインするハダカの男が海で溺れかけている映像も。至高の美しさ。さすがは、デザイナーでゲイの監督ならではの感覚です。男をこれほどに美しく、愛しみをもって描けるクリエーターは他にいないのではないかと思えました。
 そして始まるストーリーは、愛するパートナーを失ったジョージが、今日が人生最後の日だと決意し、世間で演じている大学教師としてのジョージであろうと自らを奮い立たせるところから始まります。
 そのダンディな着こなしから、部屋のリビングに至るまで、全てがフォード監督の美意識が凝縮されていて、一部の隙もありません。しかもそんなファッションセンスが鼻につかないのは、愛を失った喪失感と自らも死に直面しようとする心理描写が濃厚で、観客の注意がそちらに向いてしまうから気にならないのだろうと思います。
 またカーラジオやジョージの講義で語られる当時のキューバ危機とジョージの緊迫した心情が見事にシンクロしていて、ただならぬ雰囲気をもたらしていました。

 なかでも、人生最後の日だと思って眺める下界をどう感じたかという心理描写が巧みです。細かいカット割りに中に、ジムの事故当時の映像や近所の人々の幸福に暮らしている笑顔をスローモーションで散りばめて、主人公の喪失感を強調していました。

 但し、ゲイとしての視点が露骨なので、男を見る時の瞳や唇のことさらながらのアップのシーンなどに生理的な嫌悪感を感じる人もあるかも知れません。映画『ミルク』では、ゲイを社会的な視点で表現されているのに比べて、本作はかなり個人的なオカマ目線で表現されています。その点で、映像的な素晴らしさとは別に個人的な好みの問題が出てきそうな作品だと思います。

 作品に登場するジョージのストイックさが、死の準備を着々と整えていたのだと冒頭からネタバレを知っておいたほうが本作では、深く作品の世界に触れられることでしょう。

 最後には意外な終わり方をするのですが、だからなんなんだというのが見終わった正直な感想です。『愛の喪失』というのは分かるけれど、映画の世界には、それだけでは終わらない希望が語られるからドラマになるのではないでしょうか。
 もちろん、本作でも希望はありました。かつての恋人であり親友のチャーリーとの親密な語り合いあい、ダンスを楽しむなかで、一瞬気持ちが癒された場面もあったのです。
 そして教授の異変を察知した教え子のケニーは、心配してわざわざジョージの自宅まで訪ねてきました。美男子で、ジョージと同じような人生への孤独感を持っているケニーに、ジョージは魂を揺り動かされて、人生の輝きを見て、思わずジムと出会ったころのときめく自分を思い出していたのでした。

 しかし監督は、無常と喪失に抗うものを結局は描きませんでした。
 小地蔵は勝手に思うのですが、監督の心理の中に、不幸を愛する心情を潜在的に隠し持っているのではないかと思います。そんな深層心理が、ジョージをゲイに押しやったのではないかと感じてしまうのです。
 それはチャーリーの意味深な台詞が、気になったからです。ジョージは、本当の愛から逃げて、ゲイとして偽りの愛に迷い込んだのではないかとチャーリーはつい苦にしてしまいました。それに対してジョージは突激高して反論します。お前は9年しか結婚生活を続けられなかっただろう。私とジムとは16年も続いたのだ。お前に言う資格はないと断言するのです。
 でも小地蔵は、チャーリーの見方が正しいように思えました。ひょっとしたら、チャーリーを本当に愛しているあまりに、彼女を傷つけたくないと、自らはゲイに走ったのかも知れないのです。ジョージは、自分はゲイで充分なのだと自己卑下していたように感じられました。 それは単なる主観ではなく、ジョージの職業においても、チャーリーに言わせれば立派に一流大学の教授を務められるだけの博識を持ちながら、三流校の教壇に甘んじているのは、ジョージの自身に対する卑下する気持ちが強いからだと思ったことによるものです。

 そんなジョージの感情を投入しているフォード監督もどこまでが真性のゲイであるのかすら疑問に感じます。ただ作品に描かれる感性は、極めて女性的で繊細さを感じさせてくれます。
 作品から溢れてくる耽美的な雰囲気から察するに、きっと監督は自己愛が強いのでしょう。それ故に罪の意識で畏れおののいているのかも知れません。そんな気持ちが、本作での自己破滅願望を生み出したモチベーションに繋がっているのだろうと想像します。
 素直にチャーリーの愛を受け入れて、「希望を与える存在」になって欲しかったです。

流山の小地蔵