「現代の人々に問題提起してこそ映画化の価値がある」桜田門外ノ変 マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)
現代の人々に問題提起してこそ映画化の価値がある
まずもって、年代だの人物名だのスーパーが多すぎる。なぜ歴史物を映画にすると、いつもこうなるのだろう。2時間そこそこの中で主要人物以外の名前など、スーパーが入ったからといって、いちいち覚えられるものではない。また、覚える必要もないだろう。
では、この作品、歴史に忠実な実録ものかといえばそうでもない。大老・井伊直弼の暗殺で、現場の指揮を執った鉄之助(これぐらいは覚えられる)を中心に描いたドラマだ。だが、ここでも人物の掘り下げが浅く、人間ドラマとしても中途半端なのだ。
後半は、暗殺に関わった元水戸藩士たちの顛末を描き、またまたスーパーで誰それが斬首になったとかを延々とやる。けっきょくのところ、切り口がはっきりしない。大河ドラマのダイジェスト版を見せられた心地だ。
井伊直弼を討つに至る当時の幕政の問題点にもっと重きを置くべきだろう。水戸藩士たちはなぜ決起したのか。藩主・斉昭が愚弄されることに端を発する確執なのか、本気で世のためにやらねばならぬと考えたのか。そのあたりのとらえ方が大雑把だ。
また、2年という鉄之助の逃亡生活のあいだに、日本という国はどのように変化していったのか、そのあたりの描写もまったくない。
けっきょく、この大きな事件は、コトを起こすには時期尚早だったのか、それともこの事件が先駆けとなり御一新を迎えることになったのか、「桜田門外ノ変」がもつ意味が曖昧なまま館内の明かりがついてしまう。
更迭された斉昭と入れ違うように登城する駐日公使ハリスや、そのむかし、国の将来のために命を懸けた事件があった現代の桜田門からドタバタを繰り返す国会議事堂にパンするなど、映画的な面白さを感じるところもある。コマが揃いながら、組み立てで失敗した。
ただ、正しいかどうかは別にしても、何かを成し遂げるために命を懸けた時代があったことは確かだ。新たな国際社会の中で国を舵取り、植民地にもならず国を守り抜いた日本人がいた。ウチに22才になる猫がいるが、この猫のたった7匹分しかまだ時は経っていない。
p.s. 船頭の役で福本清三さんが出てた。斬られ役で有名だが、大部屋を定年されても元気な顔が見れて(しかも台詞付き!)嬉しかった。