冬の小鳥 : 映画評論・批評
2010年10月5日更新
2010年10月9日より岩波ホールにてロードショー
9歳の少女の面構えを通して描く、諦めを呑み込むまでに必要な嵐の時間
養護施設の暮らしになじもうとせず反抗を繰り返す9歳の少女ジニ。不屈の闘志を刻んだその面構えにまず目を奪われる。
愛する父が自分を捨てたという事実。傷ついた小鳥が介抱のかいもなく死んでしまうという事実。ずっと一緒と約束した友達がひとり去っていった事実。自分を取り囲む人や世界の理不尽を前に、「いやだ」と頑なに首を振り続けても、毎日は変わらずあっけなく列なって抗うことの空しさを噛みしめずにいられなくする。そうやって世の中を動かす大きな力、その覆し難さを受け容れていつしか人は大人になる。そんな諦めを呑み込むまでに必要な嵐の時間。映画はそれを、納得できない世界への怒りで窒息しそうな9歳の少女の白い顔に鮮やかに映し出す。韓国の施設からフランスの養父母の下へと巣立った監督ウニー・ルコントの自伝的物語は、成長にまつわる真実、普遍の物語をぬかりなく射抜く。
施設の日常、そこにいる少女たちの自然な表情を記録する監督が、ジニの顔には断固とした演出を結晶させて物語りする意志を思わせる点も興味深い。自らを埋葬したジニが息を吹き返し土くれの下から現す顔。絶対の不可能と格闘し尽くして得た爽快な諦念を浮かべたそれを映画は大空と対峙させる。あるいは記憶の中の父、その息づかい、温かな背中と心地よい風の感触を闇の奥へと見送って光の方へと歩み出す少女のまっさらな顔。新しい人生(原題)を生きる意志を湛えたその顔を切りとり得た新鋭監督の面構えも、きっと決然と静かな映画そのままの闘志に輝いているだろう。
(川口敦子)