「饒舌なカメラワーク」バグダッド・カフェ 4Kレストア版 よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
饒舌なカメラワーク
クリックして本文を読む
テーマ曲とも言える「コーリング・ユー」は、志村けんのコントで聞いたのが初めて。全員集合の時代からコントに音楽を取り入れるのがとても上手だ。
いや、志村けんの話ではなく、「バグダッド・カフェ」の話をしなければ。
原題:Out of Rosenheim
薔薇の家を出て砂漠に来たドイツ人女性の話ってこと。
ドイツから夫と二人でアメリカへ旅行に来た女は、つまらない原因の夫婦げんかの末、砂漠の真ん中で車を降りて一人で歩き始める。
結婚生活も故国の家も捨てた彼女が、うら寂れた砂漠のドライブインを活性化させる話。つまり、薔薇の家は彼女の住んでいた町の名前だが、彼女自身が砂漠に咲いた一輪の薔薇ということだ。
冒頭の夫婦喧嘩からバグダッド・カフェの人々と心が通い合うまでは、バイアスショットの多用で彼女の不安定な心の内を表している。そして、彼女が自画像を描いてもらうシークエンスでは、二重の意味で被写体である彼女は画面中央に鎮座し、むしろ彼女を中心に物語が回転していることを観客に伝えることになる。
観光ビザの期限が切れて帰国しなければならない主人公。しかし、美しい夕焼けの空に舞うブーメランのショットは、彼女が再び戻ってくることの示唆。
ここまで饒舌なカメラワークで物語ってきたのだから、実際に彼女が戻ってきて、バグダッドカフェは大盛況になる下りは不要だった感が否めない。
しかしながら、ここまで特徴的な雰囲気作りに徹した映画もなかなかない。映画で何を伝えるのか。このことに意識的な作品ほど、鑑賞者の鑑賞眼を豊かにしてくれるものはない。
コメントする