「ビジョンとマジック」バグダッド・カフェ 4Kレストア版 fuhgetsuさんの映画レビュー(感想・評価)
ビジョンとマジック
#バグダッドカフェ 4Kレストア版を名古屋の初日(#伏見ミリオン座)で観ることができました。
35年前っていうから、学生時代。
スクリーンでの再会は、そんなに時が経ったとは思えないほど心がときめく。
高校時代から映画館に入り浸るようになり、それくらい大好きな映画として5本の指の1本で、ビデオはもちろんレーザーディスクにDVDが出る度買い直して、いつも身近に居て欲しい映画だったから、この歳になって再び映画館で鑑賞(人が作った芸術作品)、いや観賞(大自然の美しい風景)できることはこの上ない幸せなのでした。
やはり、若い頃や今までと違った部分に目が行き、どこを切り取ってもいい場面なんだけど、今の自分にストレートに突き刺さるシーンを改めて堪能することができた。
ビジョン。
二つの光り。
ここがめちゃめちゃ胸騒ぎする。
何でも無い主人公とまわりの配役それぞれがいい味出してるんだよなぁ。
すごい俳優とか、飛び抜けた才能の役じゃない普通の人たちが、淡々とその冴えない日常に文句言いながらも、実は人と人のつながりの中で美しく生かされている。
お互い亭主を捨てたジャスミン(ヤスミン)とブレンダ。
そんなことは露知らず、人種も生まれも育ちも性格もまったく正反対の二人が、客の旅行者と店の経営者という立場で出会ってしまう。
なんと必然な出来事だろう。
そこには不思議なキャラの同居人があちこちに居て、それぞれが趣味の世界を楽しみながらここでの生活を愛し、実に活き活きと家族のように暮らしてる。
この地に立ってジャスミンが見た不思議な二つの光りと、画家の描いた二つの光りが、すべてを物語っているように感じる。
輝かしい希望とか、とにかく何かわからないけど、そこにはビジョンがある。
二つの偽の太陽であれば、幻日なんだろうけど、真ん中にホンモノの太陽が無いから、光学現象ではない。
画家が、宇宙エネルギーの何万もの鏡が太陽の光を反射させると語ったように、まさに啓示としてのビジョンだ。
それは相反するもの同士のはずのジャスミンとブレンダが出会うことで、最初は衝突しながらも、徐々に受け入れることで生まれたハーモニーというか相乗効果が、この店を瞬く間に魅力的な空間に生まれ変わらせた。
バグダッドのセンターとして、トラック運転手が心から休める店として大繁盛する。
旅行カバンに入っていた手品セットが功をなしたジャスミンの手品の腕もすごいけど、魂を震わすブレンダの歌声がまた素晴らしくいいのだ。
あの重苦しい演奏だった息子のピアノまで、そのときから名ジャズピアニストに生まれ変わったのだから。
まさに、マジックだ。
もう一つのビジョンとして、あの二つの光りは、やはり男と女ということか。
亭主を捨てたブレンダは本当は寂しかったから、エンディングで戻ってきて抱き合う。
一方、ジャスミンの亭主はあれからどうなったか、ドイツに帰国してまた一人で再入国して戻り、なんと画家と結婚して永住権まで得る。
本当に、どっちもよかった。
映像エフェクト処理されたオレンジ色の世界で、渇いたモハヴェ砂漠のハイウェイに溶け込むサウンドトラックがずっと永遠耳から離れない #コーリングユー とか、80年代カルチャーとしてとても話題となった映画だけど。
そういう表面的な心地よさの下に幾重にも敷かれた、何でも無いような日常の一つ一つが実は素晴らしい可能性を秘めていて、いくら反発しようと心さえ動けば、自分の意思とは関係なく、一度動き出したら止まらない、思いもよらぬ方向へ導いてくれる。
そんな #ビジョン と #マジック という魅力的な世界が観るものに感動を与え、映画館を出た後に自分の中へ落とし込んでいける。
そんな映画なんだと、何度も観ていながら改めて感じました。