「ナチスのつくり方、教えます...て、オオッ怖!」THE WAVE ウェイヴ こもねこさんの映画レビュー(感想・評価)
ナチスのつくり方、教えます...て、オオッ怖!
この映画、ホラーではない。しかし、ホラー以上に恐ろしい映画だ。人間性が崩れていくに従って独裁へ傾倒ていく過程は、まさにナチス誕生を見たような気分になった。
ドイツのとある高校で、生徒が選択できる、テーマごとの一週間の実習はじまる。そのテーマにのひとつの「独裁」を受け持った教師は、「独裁」とはどういうものかを、自分が独裁者に扮して生徒たちが体験させようとするのだが、これがとんでもない方向へと発展してしまう。
「独裁者」に扮した教師は、生徒たちに規律と調和を強制させる。そのために、制服を皆に着せて、自分たちのグループ名を決め、さらにマークまで作成する。最初は、個性派ばかりの寄せ集めと思われた教室の生徒たちは、教師の強制をこころよく受け入れだした途端、強固な組織へと変貌してしまう。その瞬間から、個性派集団が没個性の集団となってしまったのだ。
そうなってしまったのは、生徒たちがあまり経験したことがなかった一体感を強烈に感じたからだ。男も女も、不良も秀才も、人種も宗教も関係なく、「独裁」の前では同じ人間になれる、人間性を崩しても「独裁」の前に集まると信頼が生まれる、ということに気づいた途端、「独裁」そのものがイデオロギーとなり、「独裁者」は神になれる、という、まさにナチスが生まれる経緯そのままが、この作品では描かれていく。
この作品の何よりコワいところは、ナチスを生んだドイツで実際に起こった事件が、この作品の原案になっていることだ。ドイツでは「ナチスは屑」と教育されているにもかかわらず、「独裁」が生まれやすい土壌があるというところは、本当にショックだった。
そんな人間的なコワさが随所に観られるせいか、登場する生徒たちがときどき気持ち悪く感じてくるのが、この作品の欠点だ。それを生理的に受け入れて、自分も「独裁」にハマるかもしれないと思ってくる人なら、ある意味、これほど面白い映画と感じるだろう。もっとも、それが一番コワいことなのだけど...。