劇場公開日 2010年3月13日

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スイートリトルライズ : 映画評論・批評

2010年3月9日更新

2010年3月13日よりシネマライズほかにてロードショー

扉を開けるのには、「甘い小さな嘘」がありさえすればいい

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普段は意識しないのだが、気がつくと私たちの生活の場は扉だらけである。だから映画の中に数々の扉が出て来てもまったく不思議ではないのだが、この映画ではそれらの扉が何か妙に気になる。何しろ主人公の夫は帰宅後は自室に鍵をかけて引き蘢り、妻は夫に携帯で電話して用事を伝えるのである。

しかし彼らは何かを閉ざしているわけはなく、当たり前のように扉は開閉され、そこを通る人間たちがふたつの異なる空間を繋いでいく。彼らはそうやって、いくつもの異なる時間と空間を無意識に旅しているようでもある。妻の不倫や夫の不倫は単なる不倫というよりも、現在の妻とかつての夫、現在の夫とかつての妻との新たな出会いとさえ呼べるような、不確かなねじれの中にあったように思う。たしか高台にある主人公たちのマンションの部屋から見晴らせる住宅街の風景の中には、それも当たり前のように古い墓地が広がっていた。主人公たちはその墓地の地下深くに眠るかつてそこに生きていた人々とも、扉を介して関わっていたのかもしれない。

いや、人生とはそんなものなのだ。私たちは決して今ここにだけ生きているわけではない。目の前にはいくつもの扉があってその先には思わぬ世界が開けているのである。扉を開けるのには、「甘い小さな嘘」がありさえすればいい。そんな扉の向こう側からの囁きが、この映画からは聞こえてくる。

樋口泰人

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