あまり期待しないで、試写会に参加しましたが、予想に反して面白く、ホロリとさせる憎い作品でした。
何と言っても高橋克典の冴えなさに、びっくり。只野係長以上に普通の男ぶりを発揮しています。
ところが、主人公の秀吉の車に勝手に忍び込む伝助役の林遼威くんが、驚異的な子役なんです。やんちゃな6歳の少年を地のママで、自然に演じていて、台詞を覚えたようなニュアンスを全く感じさせません。それどころか、高橋克典を役柄のママにおちょくっていて、きっと高橋も苦笑いしたほどだろうと思いますよ。
途中チンピラに絡まれたときも、秀吉を軽い身のこなしで助けたりと大活躍!完全に主役を喰っていました。
伝助が曲者なのは、お父さんの職業をなかなか言わないこと。それでいて、おうちはどこ?と秀吉が聞けば、大きな大屋敷を指さしたので、誰がどう見ても金持ちの子どもなんだと思ってしまうでしょう。しかも運悪く、刑務所で誘拐の極意を聞いていた秀吉はとっさに、誘拐を思いついてしまいます。
これは結果的に伝助の思うつぼでした。伝助にしてみれば、両親が全然自分のことをかまってくれなく、おばあちゃんのところへ連れて行ってくれないので、思わず頭に来て、家出したのでした。まるで、『かいじゅうたちのいるところ』のようなお話しです。
伝助の携帯から、母親に電話すると、2000万円くらいすぐに払いますと即答。すっかり金づるを掴んだとホクホク顔の秀吉は、調子にのって5000万円をふっかけます。このノーテンキさは、これまでの高橋克典のイメージを完全に覆しておりました。
ところが、伝助の父親は大きな組の親分だったのです。
それを秀吉が知ったとき、伝助を置き去りにしてトンズラしようとします。しかし、おばあちゃんの家に行くと約束を交わしていた伝助は、秀吉にまとわりついて、逃がしません。誘拐犯と誘拐された子供の立場があべこべになってしまう展開が、実にコミカルでした。
秀吉と伝助のやりとりはコミカルですが、伝助の消息を追う篠宮一家の方は、ヤクザ映画並みにシリアスそのもの。このメリハリも楽しかったです。
何と言っても、父親役が哀川翔を投入していますから、迫力も本物。けれども伝助が曲者なら、その父親もなかなかでした。秀吉が電話しても、わざと小心者のように演じて、相手を油断させようとするのです。
後半、次第にこの父親の背中に哀愁が漂ってきます。
組員には、素人に子供を誘拐されるとはと愚痴をつかれて、組長としての貫目が立たなくなるのと同時に、厳しく伝助をしつけてきたつもりだったのに、息子の気持ちが分からなくなっていたという父親として自信喪失に陥っていくのでした。
逆に子供のいない秀吉ながら、寝食を共にするなかで伝助との距離がどんどん身近になっていき、まるで本物の親子のようになっていくのです。
ふたりが並んで歩くあるシーンで、秀吉が思わず伝助の手を繋ぐとき、一瞬カメラがストップします。ふたりのハートウォームな関係を示す象徴的なシーンでした。
伝助は、野球が好きで父親とのキャッチボールすることが、夢でした。でも父親の仕事は・・・。だからいつも壁に向かって、独りでキャッチボールしていたです。そんな伝助を不憫に思った秀吉は、ラストで父親の手下に囲まれてしまった、ただならぬ事態の中でも、キャッチボールの伝助の相手になってあげます。
父親にそのボールを投げ渡すとき、まるでこれからはお前がちゃんと父親をやれよというメッセージを秀吉が投げかけたような感じでしたね。
そして、この誘拐劇に警察も絡んでいきます。
黒崎刑事役に、刑事ドラマ大御所である船越英一郎を投入しているにも関わらず、中盤まであまり出番がなかったので、何で出ているのか疑問に思っていました。ところが終盤である偶然が重なって、黒崎刑事もこの誘拐劇の共演者に「昇格」します。この意外な伏線の張り方にも、大笑いしてしまいました、
このドラマは、ぜひ日頃忙しいお父さんと子供のカップルで見て欲しい作品だと思いました。きっと子育てについて、考え直すことでしょう。そして見終わったとき、何かしらわが子から正直な気持ちを聞き出せることでしょう。なかなかの感動作です。子供を持つ人なら、最後に絶対泣かされますよ。