「朝ドラより好きだ。観たことなかったけど…」ゲゲゲの女房 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
朝ドラより好きだ。観たことなかったけど…
松下奈緒&向井理主演のNHKの朝ドラでお馴染みだが、私は今作の吹石一恵&宮藤官九郎コンビの方がお似合いの様に感じた。
そもそも生まれながら継続性が欠如している私は職場の昼食休憩中にチラ見する程度なため、比較するのは野暮な話だが…。
おどろおどろしい画風が全く受け入れられず、原稿料が貰えない事が日常茶飯事だった極貧生活に戸惑い、途方に暮れる妻。
片や、戦時中ラバウルで片腕を失った経験から、「生きているだけで幸せ。貧乏で死ぬ事はない」と飄々と笑う旦那。
貧乏生活に対する2人のギャップが面白くて、悲惨な空気が和らぎ、腐りかけのバナナを2人で食べる場面はほのぼのとすら感じた。
鬼太郎やぬらりひょん、小豆洗いetc.水木漫画のキャラクターが抜け出し、顔を出してくる奇妙な世界観も水木しげる独自の不思議な魅力を打ち出している。
子供もでき、尻に火がつくものの、一貫して自分の描きたい漫画以外のジャンルの依頼は断る頑固さが尚更、貧乏臭さに哀愁を呼び込む。
流行に取り残されるクイリエイターとその家族の悲喜劇。
見合いして、たった5日目で結婚した2人が、ヒモジい日々を一緒に耐え抜くために他人から夫婦へと仲を近づかざるを得ないってぇのも、何だか皮肉である。
『パルコフィクション』etc.突拍子もない作風で攻める奇才・鈴木卓彌の演出が、キテレツな水木ワールドをパワーアップさせていくが、背景を街並みを思いっ切り現代の風景のまま起用したのは、奇策を飛び越え、理解に苦しむ。
昭和30年代後半の東京という設定なのにも関わらず、普通に自販機置いてあったり、エコカーがビュンビュン走っていたりするのは、大胆不敵過ぎて観ているこっちが
「ゲゲゲ…」と発してしまった。
とことんシチュエーションにこだわった同時代の『三丁目の夕日』とは真逆に位置する中途半端な創り。
そういう不安定な風味も全て含めて愛すべき水木ワールドなのかもしれませんね。
…っと、無理やりまとめたところで、最後に短歌を一首。
『妖怪の 片腕に咲く 枯れバナナ 貧しくも描く 愛をボチ墓地…』
by全竜