劇場公開日 2010年11月20日

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ゲゲゲの女房 : 映画評論・批評

2010年11月16日更新

2010年11月20日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにてロードショー

内在する力を信じる覚悟と高笑いが「魔」を振り払う

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善意と希望をベースにデフォルメされたテレビ版とは異なる世界観。ここには、ヒロインが専業主婦である古き家族像に安堵するという視点が入り込む余地などない。これは、互いのことをよく知らずに暮らし始めた男女が、手探りで毎日を生ききることで、夫婦であることを徐々に確信し合っていく物語だ。

遙か遠くのものになってしまった、昭和30年代の寒々しい家屋、先の見えない暮らし。リアリズムに妖しの世界がすっと侵入する繊細なタッチが、忘れていた様々な記憶を呼び戻してくれる。何もないけれど何でも可能かもしれないと思えた時代を背景に、鈴木卓爾は漫画に取り憑かれ夢中になった者が生み出す磁場を、たむらまさきのカメラと音響効果を巧みに生かし醸成していく。時折インサートされる水木漫画がアニメとなって動き出す瞬間は、寡黙な水木しげるの心の叫びを代弁するかのようだ。

ではこれは過去の物語にすぎないのか。いや、右肩上がりの経済成長など信じられなくなったこの国の人間が、もう一度立ち還るべき場所かもしれない。足元を見つめ、他者と息を潜める日々を繰り返し、努力したところで裏切られることが多き現実を受け入れる。それでも自分が愛してやまないことに入れ込んで、目には見えないものの力と内在する自分の力を信じるしかないという覚悟と高笑いが、「魔」を振り払う。40~50代の郷愁をそそるためではなく、若者の道標のためにこそ本作は在るに違いない。

清水節

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