劇場公開日 2010年1月30日

「【90.1】ゴールデンスランバー 映画レビュー」ゴールデンスランバー(2010) honeyさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 【90.1】ゴールデンスランバー 映画レビュー

2025年8月14日
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鑑賞方法:DVD/BD

映画『ゴールデンスランバー』批評
作品の完成度
伊坂幸太郎の原作小説が持つ軽快なテンポと、逃亡劇というサスペンス要素、そして人々の温かい繋がりというヒューマンドラマを絶妙なバランスで融合させた完成度の高い作品。中村義洋監督は、原作の骨子を忠実に守りながらも、映像作品ならではのダイナミックな演出と、ユーモアを随所に散りばめることで、観客を飽きさせない巧みな語り口を披露。特に、主人公が次々と絶体絶命の危機に陥りながらも、旧友やかつて関わった人々からの思いがけない助けによって、その窮地を脱していく展開は、観客に深い感動と希望をもたらす。この映画の完成度は、単なるサスペンスに留まらず、人と人との繋がりや、記憶の美しさを描くことに成功した点にあると言えるだろう。原作の持つ多層的なテーマを、2時間強の尺に凝縮し、エンターテイメントとして昇華させた手腕は見事の一言に尽きる。
監督・演出・編集
中村義洋監督による、緻密な構成と演出が光る。物語は、主人公・青柳雅春の逃亡劇を軸に、過去の回想と現在の出来事が巧みに行き来することで、彼の人間像や周囲との関係性を深く掘り下げていく。編集も非常にテンポが良く、サスペンスフルな展開と、コミカルなシーンの緩急が絶妙。特に、主人公が逃亡中に様々な人々と出会うシーンは、短いながらもそれぞれのキャラクターの個性が際立つ演出がなされ、物語に奥行きを与えている。無駄なシーンが一切なく、観客は物語に引き込まれ、最後まで目が離せない。監督が意図的に使用した、原作の重要なキーワードを象徴するアイテムやシーンの描写も効果的で、原作ファンにとっても嬉しいサプライズが散りばめられている。
キャスティング・役者の演技
* 堺雅人(青柳雅春 役)
宅配便ドライバーの青柳雅春は、ごく普通の善良な市民。それがゆえに、首相暗殺事件の犯人として仕立て上げられ、戸惑い、恐怖し、必死に逃げ惑う姿は、観客の共感を呼ぶ。堺雅人は、この極限状態に置かれた青柳の心理を、繊細かつ巧みに表現。特に、警察に追われ、絶望に打ちひしがれながらも、友人や元恋人との記憶を胸に、何とか生き延びようとする姿は、観客の心を強く揺さぶる。ユーモラスな表情から、鬼気迫る表情まで、幅広い演技で青柳というキャラクターに深みを与え、この物語の核となる存在感を放った。彼の演技があったからこそ、この物語は単なるエンターテイメントに留まらず、人間ドラマとして成立したと言えるだろう。
* 竹内結子(樋口晴子 役)
青柳の大学時代の元恋人で、現在は結婚し、一児の母となった樋口晴子を演じる。青柳との再会を果たし、彼の窮地を察した晴子が、昔と変わらない優しさと、母親としての強さを見せ、彼を助けようとする姿は印象的。竹内結子は、過去の思い出と現在の生活の間で揺れ動く女性の複雑な感情を、抑えた演技で表現。彼女が青柳に語りかける言葉には、彼への信頼と、決して忘れていない思い出が滲み出ており、物語の重要なターニングポイントとなった。青柳の心の支えとなる存在として、確かな存在感を示している。
* 吉岡秀隆(森田森吾 役)
青柳の大学時代の友人。現在は、大学病院に勤務する真面目な医師として登場。青柳の窮地を知り、警察の目をかいくぐって彼を助けようとする。吉岡秀隆は、一見真面目そうに見えるが、実は仲間思いで、どこか不器用な森田のキャラクターを好演。彼の演技は、青柳との友情の深さを観客に強く印象付け、物語に温かみを与えた。特に、青柳との過去の思い出を語るシーンは、二人の間に流れる強い絆を感じさせる。
* 劇団ひとり(カズ 役)
青柳の大学時代の親友で、現在はラジコン屋を営んでいる。青柳の窮地を知り、持ち前のラジコン技術を駆使して彼を助けようとする。劇団ひとりは、飄々としたキャラクターの中に、友情を大切にする熱い心を持つカズをコミカルに演じ、観客に笑いと感動をもたらした。彼の登場シーンは、物語にユーモラスなアクセントを加え、重くなりがちな逃亡劇に軽やかさをもたらした。
* 香川照之(佐々木 役)
本作のクレジット最後を飾る有名俳優。青柳を追う公安警察官・佐々木を演じる。冷静沈着で、常に青柳の一歩先を読み、追い詰める存在。香川照之は、彼の持つ独特の存在感と演技力で、佐々木というキャラクターに冷酷さと人間味の両方を与え、物語に深い緊張感をもたらした。
脚本・ストーリー
伊坂幸太郎の原作が持つ、緻密なプロットと伏線の回収が見事に映像化された。ストーリーは、首相暗殺という巨大な陰謀に巻き込まれた男の逃亡劇を中心に展開し、その中で、過去の思い出や人々の温かい繋がりが描かれる。脚本は、原作のセリフやエピソードを効果的に取り入れつつも、映画ならではのテンポ感と構成で再構築されている。特に、主人公が逃亡中に様々な人物と再会し、その度に彼らの助けによって窮地を脱する展開は、観客に希望と感動を与える。伏線が次々と回収されていく様は、ミステリーとしても秀逸であり、観客は最後まで物語の結末から目が離せない。
映像・美術衣装
仙台を舞台にした、どこかノスタルジックで温かみのある映像が印象的。特に、青柳が逃亡中にさまよう街並みや、彼がかつて住んでいたアパートの部屋などは、観客に親近感を抱かせる。美術は、登場人物それぞれのキャラクターを反映した、細部までこだわった設定がなされている。例えば、青柳の部屋は、彼の質素で実直な人柄を表現しており、カズのラジコン屋は、彼の遊び心と技術力の高さを示している。衣装も、登場人物の職業や性格を的確に表現しており、リアリティを高めている。
音楽
劇中を彩る音楽も秀逸。サスペンスフルなシーンでは、緊迫感を高めるBGMが流れ、ヒューマンドラマのシーンでは、温かみのあるメロディが流れる。そして、特筆すべきは、ビートルズの楽曲「Golden Slumbers」が主題歌として使用されている点だ。
* 主題歌: 『Golden Slumbers』
* アーティスト名: ジョン・レノン
この曲は、主人公の心の拠り所となり、物語全体を象徴する重要な役割を果たしている。
受賞・ノミネート
* 第34回日本アカデミー賞優秀作品賞
* 第34回日本アカデミー賞優秀監督賞
* 第34回日本アカデミー賞優秀脚本賞
* 第34回日本アカデミー賞優秀主演男優賞(堺雅人)

作品
監督 中村義洋 126×0.715 90.1
編集
主演 堺雅人A9×3
助演 吉岡秀隆S10
脚本・ストーリー 原作
伊坂幸太郎
脚本
中村義洋
林民夫
鈴木謙一
A9×7
撮影・映像 小松高志 B8
美術・衣装 磯見俊裕
B8
音楽 音楽
斉藤和義
主題歌
斉藤和義 S10

honey