劇場公開日 2010年1月30日

「ストーリー設定は雑でアラが目立つけれど、今度の堺雅人は面白い!」ゴールデンスランバー(2010) 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ストーリー設定は雑でアラが目立つけれど、今度の堺雅人は面白い!

2010年1月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 ゴールデン・スランバー(Golden Slumbers)とは、「黄金のまどろみ」という意味。1969年に発表されたビートルズのアルバム『アビイ・ロード』に収録されたポール・マッカートニー作の曲。登場人物たちの学生時代を象徴する音楽としてシンボリックに取り上げられていました。

 ストーリーは、権力とは全く縁のない、ごくフツーの仙台市民が、首相爆殺犯に仕立て上げられて、ひたすら逃げ回るところを描いた作品。なにしろ主人公が圧倒的な警察の組織力と情報力の前に何度も絶体絶命のピンチに遭うものだから、2時間を超える作品でも飽きは来ませんでした。

何と言っても父っちゃん坊やのような小市民ぶりを発揮する堺雅人の演技がお見事です。これまでのキャストでも最低にブザマかも知れません。友人の裏切り、次々に現れる追っ手、そして何度も絶体絶命のピンチに陥る度に目を剥いて、驚く様は圧巻です。

 ただストーリー設定は雑。
 サスペンスにしては、真犯人が明かされず、警察幹部も巻き込む犯人グループの動機とか背景など、ネタバレなしのまま終わってしまったことは、不満が残ります。
 加えて演出面でも、真っ昼間から刑事が大音響をならして、青柳を殺そうとショットガンぶっ放す。場合によっては、交番勤務の巡査まで刑事が殺してしまうのです。
 また無数のマンホールから打上げ花火を打ち上げてしまうことなど、実際は不可能でしょう。
 極めつけは、青柳に協力する連続通り魔殺人鬼。なんで人を殺すのか、なんで青柳を逃がし、協力するのかよく分からないキャラでした。
 このように、あり得ないシーンが続々登場します。
 但し、伏線の張り方としてはかなり細かくて、えっここで繋がるんだ!と驚くところが結構ありました。
 代表的なシーンとして、冒頭のシーン。本作の始まりを暗示するものと思っていたら、ラストで全然違った意味付けがなされます。この辺が中村監督らしさを感じさせてくれました。

 ストーリーテーラーとしての中村監督は、組み立て方で名人芸を毎作見せてくれました。けれども本作は原作の整理が充分できていないような気がします。
 2時間で長編を入れ込むのは、どんなベテランでも難しいことなのでしょうか。同じ堺雅人出演の『アフタースクール』と比べてしまうと、パズル的なストーリーとしては、内田監督が1枚も2枚も上を行く巧さを感じました。

流山の小地蔵