インフォーマント! : 映画評論・批評
2009年12月1日更新
2009年12月5日より恵比寿ガーデンシネマほかにてロードショー
ソダーバーグが怒りつつ笑っている。スリラーとコメディの不思議な融合
全米でもトップ50に入る大企業がある。ADMという大豆関連の食品会社だ。そのADMで役員をしているマーク・ウィテカー(マット・デイモン)なる男が、会社が国際的価格談合に走っている事実をつかむ。マークはFBIに密告する。みずから捜査の手先を志願し、胸に隠しマイクをつける。
この流れで行けば、「インフォーマント!」は企業スリラーになるはずだ。「インサイダー」や「エリン・ブロコビッチ」に通じる内部告発ドラマの趣を呈するかもしれない。が、マークの様子がおかしい。映画のナレーションも彼がつとめているのだが、語りと画面にどこかちぐはぐなところがある。
そこで耳をすますと、監督スティーブン・ソダーバーグの含み笑いが聞こえてくる。
そもそも、よく見るとマークは無能だ。マークにチクられる会社も無能で、マークを操っているはずのFBIも無能だ。ここが、映画のキーといえる。野暮で無能な人々が右往左往すれば、映画は必然的にコメディの匂いを帯びる。ソダーバーグも、そこが映画の急所になることを十分に自覚している。スリラーとは不似合いなマービン・ハムリッシュの音楽が話のサワリで鳴り響くのはその証明だろう。「追憶」や「スティング」で知られるベテラン作曲家のキッチュな味が、この映画には意図的に移植されている。
つまり、ソダーバーグは怒りつつ笑っている。企業の不正を告発しつつ、獅子身中の虫ともいうべきマークの奇怪な言動を舌なめずりするように撮っている。私としてはもう少しコメディの側に足を踏み入れてほしかったが、欲は申すまい。体重を15キロ増やし、毛皮の敷物のようなカツラをかぶったデイモンの姿は、かなり鮮明に観客の記憶に残るはずだ。
(芝山幹郎)