劇場公開日 2009年9月12日

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しんぼる : インタビュー

2009年9月9日更新

長編監督デビュー作「大日本人」以来、約2年ぶりとなるダウンタウン・松本人志の監督第2作「しんぼる」が、今週末ついに公開を迎える。メキシコのプロレスラーの物語と、四方を白い壁に囲まれた謎の部屋に閉じ込められた男の脱出劇が交錯すること以外はほとんどが謎に包まれている本作。前作に続いて、監督・脚本・主演の3役を務めた松本に撮影時の苦労やテーマ、映画への思いなどを聞いた。(取材・文:編集部)

松本人志監督 インタビュー
「いまTVで出来ないことのストレスを、映画で発散しているような気がしますね」

本作のプロモーションでは、すべての媒体で劇中の衣装を身につけて登場
本作のプロモーションでは、すべての媒体で劇中の衣装を身につけて登場

衝撃の初監督作「大日本人」以来、約2年ぶりに映画の世界に舞い戻った松本人志。2作目を作るにあたって意識したのは、やはり「海外」だったという。

「『大日本人』のときに、映画っていうのは、やっぱり海を渡るんやなあと改めて感じたんですよね。だから、日本人の観客だけを意識していたら面白くないなあと。それで、海外向けというか、無言劇にしたかったんですよね。しゃべってしまうと、どうしてもセリフを字幕に起こすときに、自分の意図した感じに、ちゃんと伝わっているかどうかという不安やジレンマが、ちょっとストレスだったんですよ」

そんな松本が今回挑んだのは、四方を白い壁に囲まれた密室から主人公があらゆる手を尽くして、抜け出そうとする脱出劇。これといった理由もなく決めた設定だというが……。

撮影中は松本自身もこの部屋から出たかったという
撮影中は松本自身もこの部屋から出たかったという

「密室って、まずお金がかからなそうじゃないですか。そんなに人数も要らないし、天候に左右されることもないですし、密室だったら低予算でできるぞというような感じで始まったと思うんですけどね。まあ、お金の面に関しては、少なめにって言われたことはあまりないですけど、このご時勢、そんなにたくさんお金も使えないだろうみたいな発想からきていると思います。でも、映画を撮りだしたら、結局は意外と金が掛かってしまいましたけどね(笑)。

そういった意味で、TVとは違うなあと思いましたよ。もちろんお金のかけ方も、全部厳しくなってますから、(映画は)貴重な場所ですよね。今のバラエティはしゃべりで笑いをとるトーク主体の番組が多いですからね。その点、この映画は真逆ですから。まあ、いまTVで出来ないことのストレスを、映画で発散しているような気がしますね。これをTVでやったらクレームがたくさんくるでしょう」

松本がこれまでに手掛けてきたコントや他の映像作品同様、徹頭徹尾、“松本人志の世界”になっている本作。松本本人はその唯一無二の“松本ワールド”、そして“松本人志の映画”というものに対してどれだけ意識的なのだろうか。

「他の映画とかぶらないようにしないといけないということなんでしょうけど、僕もそんなに映画を見てないですから、わからないですけどね。とにかく人と同じことをやってもしょうがないわけで、常日頃からオリジナリティということだけは、絶対に曲げずにやってきたつもりです。だから僕は映画に限らず、日頃からスタッフに『こんなん、どっかで見たことある?』ってよく聞くんです。お金儲けでやっていることではないのでね。お金儲けなら、他に儲けてる奴の真似をして儲ければいいことであって、やっぱり、オリジナリティで勝負するしかないですから」

本作の製作途中は逃げ出したくなることもあったという松本。劇中の主人公と同じような立場に追い込まれ、かなり苦しんだそうだが……。

やがて、白い壁からは 何かの「しんぼる」が飛び出てくる……
やがて、白い壁からは 何かの「しんぼる」が飛び出てくる……

「僕は逆劇中劇って言っていますけど、僕自身もとにかくあの部屋から抜け出したかったんですよね。スケジュール的にも大変でしたから、早く出たくて、本当に僕自身も頑張っていましたけど、なかなか出られなくて。そういった意味では、僕も映画の中の彼も一緒でしたね。僕がいくつまでこの仕事をやり続けるのか、いくつで死ぬのかはわかりませんが、振り返ったときに結構最初の方に浮かぶ、きつかった仕事のひとつでしょうね。正直『ガキの使いやあらへんで!!』の年末スペシャルなんてもんじゃないですよ。っていうか、この映画の撮影をやりながら、『ガキの使い』の年末用のロケもやっていましたから(笑)」

苦しみぬいた末に出来上がった映画は、松本自身のこれまでの人生を反映させつつ、人類の成長や進化、そして世界全体と一個人の関係といったことなど、哲学的なことを想起させる広がりのある作品となった。

「先ほども言うたように、僕個人としても本当にあの部屋から抜け出したかったというのがあるので、何かしら投影されているでしょうね。(あの主人公と僕は)被っているというか、ほとんど一緒になってました。まあ、皆さんこの映画について深く考えてくれるんですけど、それは本当にしてやったりというか、ありがたいというか、本人はそこまで深く考えていなかったりするんですけどね。でも、出来上がってみると、意外とそうなっているんですよね。後から辻褄が合ってくるというか。ただ、テーマみたいなものは、いつもなるようになるかという感じであまり設けてないんですけどね」

これまでの2作は自分で自分を演出する監督・主演のスタイルだったが、これからもこのスタイルを続けていくのだろうか。

「出来れば主役を他の人に演じてもらいたいんですよねえ。今回も企画会議で、いつの間にか、主人公のことを松本と呼ぶ人がいて、その流れでこうなってしまったんです(笑)。本当はメル・ギブソンあたりに出てもらえればと思うんですけど(笑)、(監督としての)自分はあんまり演出能力が高いタイプではないと思っているので、俳優さんを使うと、それはそれでしんどいなあという気はするんです。そう考えると、自分でやった方が楽かなと。でもその前に、次があるかどうかもわからないですけどね(笑)」

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