「映画史に残る問題作」マーターズ(2007) Minaさんの映画レビュー(感想・評価)
映画史に残る問題作
本作が人生で初めて鑑賞を途中で止めた作品だ。フランス製のスプラッタホラーという漠然とした情報だけで鑑賞し、あまりの酷さに途中で止めてしまい、1ヶ月後に再び鑑賞したのを覚えている。以来どんなホラーを観てもビビらなくなったのは言うまでもない。
最近は製作した作品が無いのかその名を聞くことが無くなった、パスカル・ロジェ監督の最恐最悪の問題作、それが本作である。
「マーターズ」という聞き慣れない言葉は"殉教者"という意味なのだが、初鑑賞時はまだ高校生。タイトルの意味を知ったとて物語が終始理解出来ず、あまりの非情な暴力と、何も分からないストーリーのストレートパンチを食らい、あまり良い印象を持たず鑑賞を終えたのを覚えている。恐らく当時レビューを書いていたら低評価だったはずだ。
基本的なストーリーは意外とシンプルであり、過去に監禁・暴力の被害に遭った少女が成長し、自分を痛めつけた家族(その家の長男は無関係)を一人残らずショットガンでぶち殺すシーンから始まる。自分の唯一の親友を電話で呼び、共に遺体処理にかかった所、怪しげな集団が現れ、地下に監禁され…という形になる。監禁されてからは暴力に次ぐ暴力。血飛沫がドバーッと出たり、内臓がでろ~んみたいなアメリカが好みそうなスプラッタではなく、誰にでも遭遇してしまう機会があるかもしれない、純粋な暴力である。椅子に縛り付けて身動きが取れない若い女の子をボコボコにするなんてどうかしていると思うが、明確な理由のある団体がそれをあえて行っているのである。それを聞いて納得する人間は居ないが、妙に説得力のある監禁・暴行をする理由には気分が悪くなった。
賛否両論の本作だが、問題のあのラストは何を言わんとしているのか。最後の「疑いなさい」は非常に意味ありげであり、息絶え絶えの中でマダムに何を言ったのか…意地悪な事に字幕も出ず、本国でも彼女が最後に何を言ったのかは明かされていない様である。散々不快な暴力を見せられた挙句、殴った相手を返り討ちにも出来ず、そして訪れる祝賀会での自殺行為…絶望以外の言葉が見つからない。
一応共通認識としては、あの団体は絶え間ない絶望や苦痛を味わった後に訪れる、“向こう側の世界"を調べている団体である。ただ死ぬだけでは無く、極限の苦痛を味わう必要があるというもの。冒頭で出て来た鉄のパンツみたいなものを履いた(頭にも被った)女性もその研究対象であり、彼女はゴキブリが身体中を這う幻覚を見ており、冒頭で盛大に相手の頭をショットガンで打ち抜いたリュシーは“彼女"と呼ぶゾンビの様な化け物が見えている。そのシーンは特に説明も無く、周りからは“彼女"は見えていないという演出がある為、リュシーは自分で自分を襲っていたのである。それら症状が出るのが、“向こう側"に辿り着ける前兆の様で、団体がリュシーを特別扱いしたのもそれである。ただ、今一つ謎なのが、団体のボスのマダムが最後に自殺をした展開。彼女の望む“向こう側の世界"がとんでもなく想像していなかった虚無であり、意味がないと悟って自殺したのか、それほど望み通り、あるいはそれ以上の世界だと分かって祝賀会を放ったらかしにしてまで“向こうの世界"に行ったのか…これはどちらともとれる。
それは、後にハリウッドでのリメイク版を観ると、後者の方だった可能性が高い。ハリウッド版は相違点もあるが、良くも悪くもアメリカ映画であり、分かりやすく解釈されていてそこまで胸糞感が無い。もしきちんと理解したいのであれば一緒に観ることをおすすめする。
通常のホラーとは違い、一度観ただけでは完全には理解出来ないかも知れない。話題だけで観ると後悔しそうだが、よく噛み砕いて観ると分かるはずだ。ただフランス映画は人を嫌な気持ちにさせる天才的な作品が多々ある為、鑑賞時は絶対に注意が必要である。個人的には上記の様に解釈しているが、それでも何通りの考え方も出来る為、今だに"問題作"や“名作"との呼び声が高いのだろう。ホラー好きならば必見の一本だ。
