「神に至るフェチズム」マーターズ(2007) 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
神に至るフェチズム
倫理的な是非はさておくとして、個人的なフェチに完全に振り切った映画は見ていて清々しい。言い訳じみた皮肉や社会啓発から完全に隔たれた、エゴイズムそのものとしか形容のできない映画というのがあってもいいと俺は思う。そういうものには良かれ悪しかれ力がある。ある一点をひたすら愚直に目指し続けることでしか辿り着けない景色がある。
本作はよくある露悪映画のような体裁から始まるものの、最終的に目指される地平は遙か彼方にある。この映画に受け手をジェットコースターのように振り回すための「遊び」は存在せず、女が辿ることになる一本の道筋だけが残酷な結末に向かって淡々と伸びている。脇道はなく、引き返すこともできない。
サスペンスも倫理も物語もあらかた剥ぎ取られた映画は、やがてモノセイズム的な宗教空間へと突入する。女を監禁・加虐するのが宗教団体であることには必然性がある。神へと至る光芒を辿る者にとって、もはやそれ以外の何物も意味をなさない。
作家のエゴイズムから始まったはずの映画が勢い余って神の領域に触れてしまった、そういう映画だったように思う。最後の皮剥ぎのシーンで女に一切の叫び声を上げさせなかったこと。それは愚直なフェチズムが横紙を破り、その向こう側に神の世界が垣間見えてしまったこと、そしてそれを監督が目撃してしまったことの証左なのではないか。
俺にもう少し肉体的苦痛描写に対する耐性があったらもっとノれたんじゃないかと思うとただただ惜しい。
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