劇場公開日 2010年7月23日

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「自分の頭でそれは本当に考えたことなのか?」インセプション あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0自分の頭でそれは本当に考えたことなのか?

2021年6月18日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

インセプション
辞書を引くと発端とか端緒とある
本作の劇中では、他人の意識にある種の考え方を「植え付け」ることをインセプションという用語として扱われている

ウィルスや細菌より最強の寄生物は"アイデア"
アイデアはウィルスのように感染する
いったん頭に芽生えたら、取り除けない
アイデアは杭のように突き刺さる

そうだろうか?
何か画期的なアイデアならばそうかも知れない
つまらないアイデアなんか見向きもされはしないではないか

アイデアではなく、「疑い」ならばわかる
信じ込んでいるもの、無条件に信頼しているものに対する疑念を、誰かに植え付けならそれは他人に感染するだろう
信頼度が高く、その信頼が崩れれば大変な事態を招くならばそうだろう

主義や主張、体制への疑念はそれこそあっという間に伝染するかも知れない
だから発端や端緒なのだ

ならば最愛の妻の愛情、偉大な尊敬する父の愛情はどうか?
しかし、それは伝染するのか?

もうここでノーラン監督に騙されているように感じる

本作の物語はつまるところ、エヴァンゲリオンに似ている
つまりコブの死んだ妻を取り戻す為の補完計画だったのだ
エンドーはその為のスポンサーでさしずめゼーレにあたるというわけだ

夢の中の夢、その中で見る夢
夢と現実の時間の進行速度の違い
誰もみたことのない騙し絵の世界
アイデアを他人に知らぬ内に植え付ける事ができるのなら、逆にアイデアを盗聴する事も可能
アイデアが脳裏から知らない内に盗まれるというなら、それへの対抗手段もあるはずだ

極めて映画的で刺激的だ
そんなものを撮ろうと考えるのはノーラン監督しかいない
誰も観たことのない映画になる

しかしそれは本作のテーマでは無いのではと「疑う」のだ

本作の本当のテーマは別のところにあるのではないのか?

誰も観たことのない映像は本当のテーマを扱う映画を撮るための綺麗な包装紙に過ぎないのではないのか?

そんな「疑念」がいつの間にか植え付けられていたのだ

本作の本当のテーマとは?
一体それは何か?

「その考えは自分の考えたことなのか?」

突き詰めて考えると本作で言いたいことは、この一言では無いだろうか

そのアイデアは、その見方は、一体どこから出現したのか?
自分の頭の中に、何もないゼロのところから生じたのものなのだろうか?

様々な記憶やアイデア、知識、経験そんなものの断片が長い時間をかけて無意識に様々に組み合わされている内にある日突然化学反応を生じて、脳裏に生まれ出たのかも知れない

しかし本当は、誰かの何気ない一言から生まれ出たアイデアなのかも知れない
それは注意深くヒントを与えられて、まるで自分が無から考え出したかのように植え付けられたアイデアであったのかも知れないではないか?
まるでスティルスマーケティングのように

政府のいうこと
支持政党のいうこと
メディアのいうこと
評論家の言うこと
どこかのネットに書いてあったこと
教師の言うこと
先輩の言うこと
知人の言うこと
家族の言うこと
世間がそう言うから

自分は、あなたはそれらを無批判で無条件に鵜呑みにしているのではないのか?

そんな疑問を私達は本作で「植え付け」られてしまったのだ

だからエンドロールの最後の最後に勝ち誇ったようにインセプションと大書きされていたのだ
つまりそれは「植え付け大成功」という意味だったのだ

自分の頭でそれは本当に考えたことなのか?

このテーマはメメントと同じだ
これこそノーラン節だ

こんな映画、こんなテーマを古今東西の誰が映画に出来るというのだ

素晴らしい作品だ
感服するしかない

あき240