「画竜点睛を欠いている」プール 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
画竜点睛を欠いている
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自分のやりたいことをやった結果、娘を捨てることになった母親。当然娘はそれについて疑義を呈するが、母親は「あなたを信じていたから」ときっぱり言い放つ。それで娘も得心がいったようだ。
しかしいち視聴者として意見するならば、やはりどうしても娘の心境のほうに同情が傾斜してしまうし、母親の言葉に重みを感じにくい。そしてそれになんだかんだ説き伏せられている娘にも疑問符が浮かぶ。
もちろん、このような再生のしかたがあるのはわかる。互いの心にわだかまる不平不満を一切合切解消することだけが素晴らしい人間関係ではない。ときおり表面に波が立つことはあっても概して穏やかな、言うなればプールのような人間関係のほうがむしろリアリティという点では優れている。
とはいえ娘を捨ててまで異国に旅立った理由が描画されないせいで、母親の言葉のすべてが軽薄な自己弁護の様相を呈してしまっている。
全編を通して説明的な会話シーンが山ほどあるというのに、ここだけは「視聴者の良心的想像力にお任せします」という曖昧主義に逃げるのはどうかと思う。一番重要なシーンなのに。
そうそう、ゆったりとした長回しによって安穏な時空間を生成しているにもかかわらず、それによって生じた時間的遅延を埋め合わせるように性急かつ説明的な会話シーンが逐一挿入されるのも嫌だった。これらの積み重ねによって母親の言葉がエクスキューズの傾向をさらに強めてしまっているともいえる。
邦画の悪いとこだけを純粋培養するとこうなるという良い範型。
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