「スクルージはもともとはいい人だった」Disney's クリスマス・キャロル KGRさんの映画レビュー(感想・評価)
スクルージはもともとはいい人だった
ジム・キャリー、ゲーリー・オールドマン、ロビン・ライト・ペン
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3Dの出来の良さは大方の人が賞賛している。
吹き替えであることを考慮しても3Dを選択すべし、という人が多い。
私は残念ながら2Dでの鑑賞だが、それでも映像は十分見事だった。
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「クリスマス・キャロル」のストーリーについては既にご承知のとおり。
エベニーザ・スクルージという強欲でけちな嫌われ者の高利貸しが、
クリスマス・イブの夜、過去、現在、未来のクリスマスの幽霊につれまわされて改心し、その後は幸せに生きる物語。
ストーリー自体は良く知られたものでひねりがあるわけではない。
クリスマスが題材だが、あまりキリスト教的善悪感を強いるという感じはしない。
スクルージは根っからの悪人ではなく、もともとは心の優しい人間であり、
今もティムの行く末に涙する善良な老人である。
それが長い年月の間にひねくれてしまっただけで、何か切っ掛けがあれば元の善良な自分を取り戻せるものとして描かれる。
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この原作が書かれた1843年のイギリスは産業革命の末期。
産業革命は、いわゆる家内制手工業、工場制手工業から
工場制機械工業へと進化した時代である。
生産性は飛躍的に向上し、経済的な繁栄をもたらした。
しかし、その一方で、単純労働者を生み、格差と貧困を生んだとも言われる。
この物語はそんな社会環境の中で、富めること自体は悪ではないが、
富める者が貧しい者に手を差し伸べるのは当然で、ある意味社会的義務でもあり、
その時期としてクリスマスがもっともふさわしいのだ、としているとされる。
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私はさらにもう一つの面からの見方を加える。
それは「教育」
産業革命以前は、裕福な子供しか教育が受けられず、
1843年はやっと「すべての子供に教育を」の考えが実現しつつあったころ。
また、教育によって無知と貧困から自己を解放することができるとされた。
スクルージはちゃんと教育を受けており、本来は正しい心を持った大人になるはずが、
どこかで曲がってしまったが、心底悪い人間ではない。
精霊の見せる無知と貧困の行く末とは違う道を歩むべき人間なのだ。
だからこそ、たった一晩で改心したのであり、
子供のころの教育で培われた本来の生き方に導かれた。
ディケンズは自分自身のわずかしか学校に行けず、親は借金で投獄され、
自分は重労働に苦しめられた。
そんな経験も踏まえて、そう言っているようにも思える。