「これぞ、映画の魔力。 最高にキュートでブキミな世界へようこそ!」コララインとボタンの魔女 3D 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
これぞ、映画の魔力。 最高にキュートでブキミな世界へようこそ!
スクリーンの向こうにもうひとつの世界がある——そう信じさせてくれる映画って滅多に無いし、登場人物が生身の人間でない場合は尚更だ。
物を啄む花々、弾かせるピアノ、トビネズミのダンス、犬だらけのシアター、機械仕掛けのカマキリ、月を覆うアレの影、虚無の世界、刺繍の蜘蛛の巣……スクリーンを覆い尽くすブキミでステキなイマジネーションの洪水、魅力的なキャラ達が見せる一挙手一投足。血の滲むような努力で作られたその映像を観ているだけで、背筋がゾクゾクするほどの感動を覚えずにいられない。
つまりは、上映時間の約6000秒間、度肝抜かれっぱなし。
一瞬たりとも目が離せない。
信じられない、これが『実写』だなんて!!
(人形の継ぎ目の線を消す過程や3D化の際にデジタル処理は行っているそうだが、それ以外は実写らしい——けど、スモークや蝋燭の炎なんて一体全体どうやって撮ったんだ?)
驚いたり不機嫌になったり眉を潜めたり、表情のくるくる変わる主人公コララインが最高にキュート。
その他の登場人物たちだってひとクセもふたクセもあり、奇妙だけど堪らなく愛らしい。
怖い怖いボタンの魔女も、その行動の底にあるのは『独りにしないで』という子どもっぽくも切実な願いだ。
なんでも欲しい物をあげるから、私を愛して。私だけの物になって。
“別のパパ”の最後の呟きや、“別の友達”の哀しそうな表情。そして、魔女が作らなかった『家の外の世界』のゾッとするほどの空虚さ。
魔女の作り出した世界は驚きと誘惑と恐怖に満ちているが、時々ふっと、虚しさや淋しさが顔を覗かせる。
きっと見返りを求めてあれこれ与えたところで誰も愛してくれないんだろう。
魔女から綺麗で素敵な物を沢山もらったコララインだが、手に入れて本当に嬉しかったのは、あの人からの謝罪と愛情が詰まった小さな贈り物だったはず。
いつまでも上映時間が終わらないでほしいと思える映画って久々だ。
作り手の愛情によって、物言わぬ人形に本当に魂が宿る魔法の時間。これこそが映画の魔力だ。スクリーンの向こうに、現代の錬金術を見た。
文句無しのA+。
ところで今回観たのは吹替版。俳優参加の吹替版には失望を通り越して怒りを覚える事も多いが、今回は大成功。榮倉奈々も劇団ひとりもなかなかどうして達者なものだった。本当は原語版で見たいけど、3Dで字幕は疲れるし、そもそも上映してないしね。吹替版スタッフの皆様、本当にお疲れ様でした。