「駐妻ならきっと共感できる作品。」ジュリー&ジュリア movie mammaさんの映画レビュー(感想・評価)
駐妻ならきっと共感できる作品。
転勤族の妻・駐在員の妻としての立場を経験した事があるならきっとわかるはず、この作品の主人公達の感覚。
自分の都合ではない引っ越しと現地暮らしに費やす数年を、どう自分自身の人生に絡めて糧にするかという感覚。
そして、食べ物大好きだから現地の味を沢山作りたいのに、レシピが現地語しかなくて、現地語→英語→日本語にいちいち訳さないといけないといけない!という感覚。
ジュリーとジュリア両方の気持ちにリアルに共感できた。
何もせず専業主婦として過ごす妻達・仕事があれば仕事で精一杯の妻達も世の中には大勢いる中で、ジュリーもジュリアもその期間に何かしようと一生懸命生きているのが素晴らしい。
2人とも、生きている世代は違うけれど食べる事が大好きだから、料理を通したチャレンジ。
ジュリーは常に陽気。夫は国交情勢に左右される仕事で転勤だらけで忙しそうでも、ジュリーに本当にやりたいことは何?と聞いてくれる。コルドンブルーの軍隊の調理部員向けクラスに入っていても、帰宅して玉ねぎの山盛りみじん切りしかなくても、ジュリーが一生懸命なら応援してくれるのは、ジュリーが常にポジティブだからなのだろう。元々アメリカでもかなり料理ができる方だったのに、パリに住んでフランス料理に開眼してからもいつも謙虚。パリで出会った友達と一緒に、フランス料理を助手がいないアメリカ人でも1人で上手に作れるよう、英語で分量も正確にレシピをまとめあげていく様子は見ている者もわくわくする。取扱注意としながらも、姉妹や仲間のためなら大切なレシピを共有するその心の豊かさが、出版にこぎつける運に結びつけたように感じた。実際は断られてもめげずに、ご主人と試作本を別の出版社に送ったから。貪欲という表現とはまた違う、学びの姿勢、明るく前向きな捉え方生き方は素晴らしい。
ジュリアは現代の共働き夫婦の典型的な生活。ストレスフルな仕事。でも、心のバランスを取る意味もあってか、なにかをやり遂げようと決意し、半世紀前にジュリーがまとめたレシピ本を、1年間で全て作ってブログに興すと決意する。524もの料理を1日1品以上必ず作るのは簡単な事ではないが、ジュリーが細かく分量やコツをまとめているからこそ、ジュリアのような忙しくADD持ちの女性でもおいしく作り上げる事ができる。半世紀前にジュリーが様々なエピソードとともに作り上げたレシピが、狭いキッキンの中で若い働く主婦により本当に再現されて、同じ料理が違う夫婦の中で再び新しい思い出を紡いでいくのが見ていて楽しい。チャレンジが続くのはその味を周りが喜ぶから。ブログに私生活を晒すことは周りを巻き込む事にもなり、元々胃が弱い夫にとっては、ブログであけすけ、更に毎日続く高カロリーのご馳走料理、妻が見向きしなくなるとうんざりな生活でもあるが、結局、ご飯目当てに戻ってくる。
明るく心豊かに生きていく=毎食の食べ物を楽しむこと。2つが密接に関係しているから、食を大切にする者は幸せに過ごせる、これを実感する作品。
日本ではジュリーチャイルドの日本語のレシピは出版されていないのが残念。
作中の2組の夫婦愛も素敵だし、何よりメリル・ストリープが、アナウィンターともサッチャーとも全く違う、ジュリーチャイルドにしか見えない演技で、歩き方身振り手振り話し方までそっくり。演じ分けが見事。