「世界観が圧倒的」空気人形 Chisaさんの映画レビュー(感想・評価)
世界観が圧倒的
何もかも無理があるのに、まるで何も無理などないかのように優雅に進んでいくストーリーと、降りかかる全ての違和感を滑らかに受け入れていく登場人物たち。
部屋の物の配置が変わり、人形の服が増え、顔には化粧が施され、髪型が変わり(シャンプーひとつにあれほどこだわっていたのに!)、外出が夜にまで及び、寝ている間に勝手にシャワーが使われているにもかかわらず、一向に気づかない持ち主。
言葉が話せない、海で空き瓶を集める千鳥足の若い女を相手に、怪訝な顔をすることもなく「死」や「誕生日」という言葉の意味を解説し、自分の目の前で破けて空気が抜けていく女が実は人間ではないという現実を物ともせず、セロテープで穴を塞いで空気を入れ直して『もう大丈夫だから』と言ってしまうジュンイチ。
律儀に持ち主の家へ毎晩戻ってくる人形。
工場に彷徨い込んできた人形をあたかもよくあることのように受け入れて、「おかえり」と言ってしまう男。
全てに無理がある。でも無理がない。
「空っぽ」なのは個人だけではなくて、人と人との関係同じようにも空っぽで、だから、本来なら気付かずにいられない違和感に気付くことができない、あるいは気付かないふりをすることが容易にできてしまう、そんな世界に生きている虚しさ。
相手をこの上なく大切に思うからこそ、意図的に目を逸らして気付いていないふりをしなければいけないときもある。
繰り返し出てくるゴミ捨てのシーン。
綿毛が抜けたたんぽぽ。
前半のメルヘンチックな展開は好きだったけれど、後半はいたたまれなかった。
ジュンイチとの別れはあんな風にしなくてもいいのにな、、、と思う反面、一度空気が抜けてしまった人間に息を吹き込むことはできないのだ、ということをしっかり描く必要も確かにあったのだと思う。
井浦様って、「ザ・草食」みたいな風貌と声をしておきながら平気でえげつない濡れ場を演じちゃうからグッジョブだぜ。