母なる証明 : インタビュー
兵役を終えたウォンビンの長編映画復帰作「母なる証明」が、今週末いよいよ日本公開を迎える。韓国の田舎町で起きた凄惨な殺人事件の容疑者となってしまった純粋な青年トジュンと、息子の無罪を信じ、疑惑を晴らすべく奔走する母親の姿を描いた本作。eiga.comでは、難役トジュンを5年のブランクを感じさせない演技で見事に体現したウォンビンと、彼の“進化”を間近で見ていたポン・ジュノ監督にインタビューを行った。(取材・文:編集部)
ポン・ジュノ監督&ウォンビン インタビュー
「ウォンビンは、一瞬で役の本質まで到達することができた」(ポン)
「監督は演出力もさることながら、人間性がとても素敵なんです」(ウォンビン)
――5年ぶりの映画出演で、しかも若き巨匠のポン・ジュノ監督作ということで、やはりプレッシャーを感じてましたか?
ウォンビン:「当然のように緊張もしたし、かなりプレッシャーもありました。ポン・ジュノ監督のような素晴らしい監督の映画に自分が参加することによって迷惑をかけてはいけないので、まずは自分が一生懸命やるだけでしたね。ただ、実際にポン監督と仕事をしていくと、ぐいぐいと自分たちを引っ張っていってくれるし、私たちの持っているもので満たしていってくれるので、本当に感謝しています。その上で、俳優たちの意見に対しても耳を傾けてくれて、思いっきり演技が出来るように環境作りをしてくれました」
――2人は今回が初顔合わせですが、お互いの存在に対してどのような印象を持ってましたか? そして撮影を経てその印象は変わりましたか?
ポン:「私は映画業界のパーティやイベントにもあまりいかないし、ウォンビンも1人で過ごすのが好きみたいで、私たちはお互いに顔を合わせることがなかったんです。なので初めて会ったのは、この映画のために知人が設けてくれた会食の席でした。そのとき、様々な印象を受けましたが、TVで見ていた彼とは随分印象が違うなと思いましたね。意外性、そしてある種の豊かさを感じました。その時点で、僕は心の中で、彼と仕事をしようと決意しました。そして実際に撮ってみると、かなり根性があることがわかりました。と同時に信じられないくらいとぼけた面があることも分かりました(笑)。映画を見れば、そういった面が垣間見えると思うので、注意して見ると、けっこう楽しいですよ」
ウォンビン:「ポン監督はこれまでに傑作をものにしているので、会う前は演技に対してとても厳しい人だと思っていました。なので、実際自分が仕事をすることになって上手くやっていけるのかどうか、とても不安でした。ですが、クランクインしてみると監督はとても愉快な方で、撮影時に大声をあげるようなことはほとんどなかったです。現場で僕らが気づかないようなこともいろいろと話をしてくれて、学ぶことが多かったですし、僕らの想像を超えるような画作りをされるところがまた素晴らしいと思いました。そして監督は演出力もさることながら、人間性がとても素敵なんです。僕以外の周りのスタッフ・キャストもそう思っているはずです」
――今回ウォンビンさんが演じたトジュンは、“小鹿のような目をした”純粋な青年という難役でしたが、トジュンというキャラクターが持つ無垢さをどのように表現しようとしましたか?
ウォンビン:「基本的に外見的なこと、例えば、手つき、目の動き、歩き方などにはさほど気をつけませんでした。それよりも、トジュンという青年の中にある純粋さや、童心を持ったまま大人になったような彼のピュアな面をうまく表現するということが僕にとっての課題でした。実際に、この部分は演技をしながら難しいと感じたところでしたね」
ポン:「ウォンビンもそうだったと思うし、監督の私自身もそうだったんですが、トジュンという人物を描いていく、そして解釈していくにあたっては、彼の内面と外見、彼の過去と現在を分けて考えませんでした。その瞬間ごとにトジュンだったらどう行動するか、ということに集中して撮っていました。ですから、あらかじめ何らかの計算をして、それをひっくり返して演技を組み立てるというわけではなく、実際にトジュンという人間がそこに存在するとシンプルに考えて、彼だったらどう感じ、動くかということに自分たちは集中していましたね」
――ポン監督からウォンビンを見て、彼が進化したところはどんなところでしょうか?
ポン:「これまでも俳優として成長を重ねてきたと思うし、4年の空白期間にも俳優としてということ以前に、普通に歳を重ねて生きてきたひとりの大人の男として、彼はどんどん熟成されてきたと思います。今回の映画では、ウォンビンがトジュンというキャラクターを演じるにあたって採ったアプローチに彼の熟成が現れていると思います。もし彼がこの役柄をとても複雑で難しいと思い、そのアプローチも複雑に考えて、テクニックを駆使しようと考えていたならば、俳優として入ってはいけない迷宮に迷い込んでいたと思います。でも、彼は透明な目で、シンプルにトジュンというキャラクターを作っていた。だからこそ、彼も純粋な気持ちで臨んだと自信を持って言えるのではないでしょうか? 実際に、とても複雑な役ですが、それをあくまでもストレートなアプローチをして演じた。だから、周囲もビックリするほどの早さで、役の本質まで到達することができたのだと思います。それは監督の私が横で見ていても驚くほどのものでした。
さらには、今回の相手役は大女優のキム・ヘジャさんだったので、それだけでも大きなプレッシャーだったはずです。劇中、トジュンが5歳の時の思い出を母親に語る恐ろしいシーンが出てきます。ここは、ヘジャさんを相手にピーンと張り詰めた緊張感を出さなければならない、とても重要なシーンだったのですが、あのヘジャさんを相手に一歩も引かない演技力をもって、その緊張感を維持してくれました。そこに彼の演技の神髄が見えるのではないでしょうか」